第4話 おさななじみおあエッチなぱいせん?

 なんだ? なんだなんだなんだなんだ??

 なんなんだこれはーーーーーーーー!!


 神有かみありツキト! 十七歳! モスグリーン色に変色した体育館の用具室の窓の時空が歪んで、女子更衣室とつながりました!


 なんで? 本当になんで? なんだったんだ? 〝ういんどう〟って窓って意味?? ねえ、おねーさん。なんでそんなにご都合主義な解釈をするの? そして俺はまた、カノに嫌われてしまった。カノのブラジャーを見て。パンツとお揃いのモスグリーン色のブラジャーをバッチリもくげきして、ガッツリ嫌われてしまった。ちくしょう! ぱーとつぅ⤴︎


 もういやだ! 本当になんなんだ! ラッキーなのにちっとも喜べない。なんで? あんなに見たくて見たくて仕方がなかった、カノの下着姿を見てなんで俺は落ち込まないといけないんだ??


 カオは学校が終わるとまるで逃げるように教室を出ていった。「とりつく島がない」とはこのことだ。でもいい。カノの誤解をとくのはあとでいい。そんなことよりも、俺はこのあと大勝負がまっている。屋上でミナミ先輩と話さないといけない。ミナミ先輩をフラないといけない! 気合を入れろ、神有かみありツキト!


 おれは、屋上へ向かう階段を登った。そして、屋上のドアを開けると、


「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」


って、いきなり、女子の黄色い声が聞こえた。え? なにこれ??


「きゃーきたーーーーーーーーーー!」

「あぁ、神有かみありくんカッコイイ……」

神有かみありくん、いよいよミナミに告白するんだ!」

「どうしよう、わたしがドキドキしてきちゃった!」

「よし、録画準備OK!」

「がんばれ、ミナミ! 今日は勝負下着つけてるんだから大丈夫だよ!」

「いいなぁ、はやくあたしも色々オトナの経験したい!」


 なんだなんだ? また頭の中に声が響いてきた、え? この人たちミナミ先輩のお友達?

 そしてなんで俺、ミナミ先輩に告白する流れになっているの???


 え? なんで? こんな大勢の先輩の前で俺、ミナミ先輩をフラなきゃいけないの??? 地獄だ……地獄のしょぎょうだ。


 これじゃあ俺、かんぜんに悪役になっちゃうよ! ひとでなしのレッテルはられちゃうよ!!


神有かみありくん……はなしってなに?」


 ミナミ先輩が俺のまっすぐと見つめてきた。かわいい……いっそこのまま告白しちゃおっかな……こんなチャンスもう一生におとずれない。

 なんのとりえもないフツーオブフツーの男子が、学園一の美少女に好意をもたれるなんて、もう絶対におとずれない。


 なんだかしらないおねーさんの〝とりーと〟効果で、髪をオレンジ色に逆立ててオーラを発するくらいのドーピング効果を得ないと、ミナミ先輩が俺を好きになってくれる訳がない。


 考えろ、神有かみありツキト。ここでいったん、ミナミ先輩に告白をすれば、全て丸く収まるんじゃないのか?

 いったんミナミ先輩とお付き合いをすればいいんじゃないのか? そうすれば総スカンを喰らうことなない! その場しのぎができる。


 俺は、考えた。考えて考えて考えまくった。


「あ、あの! ミナミ先輩!」

「……なあに、神有かみありくん」

「そ、その……」


 好きって言え! 言えば楽になる。楽になるぞ! トラブルをさけれるぞ! 総スカンはふせげるぞ!! 言え! 言うんだ!!


「…………お、俺。好きな人がいるんです!

 ミナミ先輩とはおつきあいできません。ごめんなさい!!」


「え……?」


 ミナミ先輩がびっくりした顔している。後ろにいるミナミ先輩の友達もびっくりしている。


「そ、その、ミナミ先輩が俺のことを好きなのは、多分一時の気の迷いです!」


 言ってしまった。ミナミ先輩の友達が俺のことをめっちゃニラんでいる。怖い!! 

 でも言おう。正直に言おう!!


「俺、昨日から、なんかへんなおねーさんが見えて、なんだか、めっちゃモテる魔法をかけられたんです。だから、ミナミ先輩のは、かんちがいというか、いっときの迷いというか、多分、催眠術的なアレなんです!!」


「…………………………」


 言ってしまった! ついに言ってしまった。頭がおかしいって思われたかな?

 でも、事実なんだし、しょうがない。しょうがない!


「………それって、神有かみありくんの勘違いだと思うよ?」

「い、いや、信じられないとは思うんですけど、本当なんです!! 信じてください!!」


 ミナミ先輩は、俺のことをじっと見た。しばらくじっと見てから、クスって笑いながら言った。


「わかったわ。なんだかあやしーおねーさんが見えてるってのは信じてあげる。

 でも、わたしが君のことを好きなのは、そのおねーさんのせいじゃないわ」


「えっ?」


「だってわたし、君のことがずっと好きだもん。もう一年以上前から。君が、入学した時から」


「えええええええ!!!!!」


 うそ、そんなことってある? そんなことってある?? 


「君が入学した時、可愛い子いるなぁって思ったの。でもわたしその時彼氏いたから……わたし、そーゆーとこあんがい古い考えなの? イメージとちがう?」


 俺は、首をぶんぶんと左右にふった。


「でもね。彼とわかれちゃったから……君に告白したの。う〜〜〜ん。でもダメだったか。ザンネン。君の彼女、なんとなく乗り気に見えなかったから、ワンチャンありかなっておもったんだけど……」


 そう言うと、ミナミ先輩は、そっとぼくの耳元でささやいた。


「ムラムラしたら、いつでもおいで❤︎ スッキリさせてあ・げ・る❤︎」


 ぼくは、顔が真っ赤になるのがわかった。ちょっと頭の整理がおっつかなかった。だからそのままUターンして、屋上から去ることにした。


 Uターンしたら目の前におねーさんがふわふわと浮いていた。


「とりっくあとりーと?」

「トリックでおねがいします!」

「いえす! とりっく!! とりっくあういんどう!!」


 たちまち屋上がモスグリーン色に染まる。


「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」


 ミナミ先輩たちが、叫び声をあげる。きっと後ろを振り返ると、パンツが丸見えのめくるめくパラダイスが広がっているに違いない。


 ……でも、俺はそんなの見るヒマがなかった。それどころじゃなかった。ミナミ先輩の言葉で、頭がいっぱいになっていたからだ。


『君の彼女、なんとなく乗り気に見えなかったから』

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