第5話 とりっくあうおーたー!

 なんで? なんでなんでなんでなんで??

 え? どういうことーーーーーーーー!!


 神有かみありツキト! 十七歳! ちょっと、いや本当にもったいないけど、ミナミ先輩とのお付き合いをお断りしました! 

 でも、ミナミ先輩にちょっと、いやとんんでもなく気になることを言われてしまいました。


『君の彼女、なんとなく乗り気に見えなかったから』


 どういうこと? どういうこと?? どういうこと???


 きのう、俺は確かにカノに告白をした!


「俺たち、つきあっちゃわない??」


 って告白した。そしたら、カノはちゃんと返事をしてくれた。


「……うん」


 って返事をくれた! これって、OKってことじゃないの???


 おれは気になって気になってしょうがなかった。ふりむけばミナミ先輩をはじめとした、先輩方のめくるめくパンチラパラダイスがあるのに、そんなの見る余裕もなく、カノのことで頭がいっぱいになっていた。


 俺は、昨日よりさらに早くおおあわてで家に帰ると、速攻で服をきがえてカノの家に行ってインターホンを鳴らした。


 ピロリン♪ ピロリン♪ ピロリン♪


 ほどなく、インターホン越しに声が聞こえる。


「はい!」

「俺だけど」

「いまいく!」


 そう言うと、あっけなくインターホンは切れた。そして数秒もたたずにドアが開く。


 ガチャリ


「よくきたな。あがるがよい」


 そこには、ちっちゃな女の子がいた。カノがちっちゃくなった……わけではない。カノの妹のキノちゃんだ。今年で三歳。おしゃまな女の子だ。


 カノのお母さんは、キノちゃんを産んだ時に亡くなった。それからもう、ずっとカノはお父さんと手分けをして卯月うづき家の家事をやっている。

 幸い、専業主婦の俺の母さんがいたから、母さんがつきっきりで家事の手伝いや、キノちゃんのお世話をしていた。

 うちの母さんと、カノの母さんは、幼なじみだ。


「カノちゃんとキノちゃんは、わたしの娘みたいなものだから」


っていつも言っていた。


 だから、父さんの海外赴任についていくときは、それはそれはカノとキノちゃんのことを心配していた。俺の母さんは過保護なんだ。俺にも過保護だったけど、カノとキノちゃんに対しては、輪をかけて過保護だった。

 俺は、そんな過保護な母さんから、ものすごく念をおされたんだ。


「カノちゃんと、キノちゃんのこと、よろしくね」


って。

 とはいえ、ろくに家事もできない俺ができることはほとんどない。むしろカノにおせわされている。俺にできることといえば、


「すーぱーうるとらみらくるちょっぷ」

「ずばしぃ! ヤラレターーーーーーーーちゅどーん!!」


 キノちゃんの子守りをするくらいだった。


「おんなのてきは、ほろびた!」


 キノちゃんはゴキゲンだ。今日のキノちゃんのリクエストは、戦いごっこ。

 日曜日のあさに、エンディングでダンスをおどるアニメのごっこ遊びだ。(チョップが必殺技のキャラはいなかった気がするけど??)

 でもまあ、ごっこ遊びだし、こまかいことを気にしてもしょうがない。

 ちなみに、きのうはハロウィンごっこで、おとといはエンディングのダンスの練習だった。


「ごはんできたよー」

「はーい」

「はーい」


 俺がキノちゃんの子守りをしている間に、カノはばんごはんをつくる。(そうじと洗濯はカノのお父さんの担当らしい)

 でもって俺はカノの手料理をご馳走になって、カノのお父さんが帰宅したら家に帰る。カノのお父さんは、出社時間が遅いから、帰るのはだいたい9時前後。俺は、今日もその時間に帰宅したカノのお父さんと、入れかわりで家に帰宅した。


 俺は、公園をつっきって、家に帰る。視界にブランコがはいった。俺は、ブランコをこぎながらカノに告白をしたんだ。


「俺たち、つきあっちゃわない??」

「……うん」


 昨日のことなのに、えらい昔のことに思える。そして、ミナミ先輩のことばを思い出す。


『君の彼女、なんとなく乗り気に見えなかったから』


 結局聞けなかったな……俺は、ばんごはんを食べながら、登校中にカノのパンツを見たことをあやまった。カノは「まあ、不可抗力だし」って、一応、許してくれた。

 あと、ブラジャーを見てしまったことは、意外にもカノから切りだしてきた。


「なんか今日さ、更衣室にのぞきが出たんだよね。いきなり窓が「ガラって」開いたの」

「えええええええぇ!!」


 やばい、ツメラレる……俺は言葉をしんちょうに選んだ。


「ど、どどどど、どんな男だったの?」


「それが、まっくらで良くわかんなかったの。すぐに窓はしまったし。それに不思議なんだよね。わたし、すぐに窓を確かめたんだけど、窓の鍵、しっかり閉まっていたの」


「そ、そそそそそそそそうなんだ、夢でもみたんじゃないかなぁ?」


「でも、クラスの女の子全員もくげきしたんだよ? 今度あったら絶対にケーサツに突き出してやるんだから!!」


「そ、そそそそそそそそ、そうなんだ、つかまるといいね」


 やばい!!! このままだと俺は近いうちにのぞきでつかまることだろう。それまでに、この問題をなんとしてでも解決しないと。


「とりっくおあとりーと?」


 このおねーさんに、なんとしてでもおひきとりねがわないと。


「とりっくあとりーと?」


 ガチャリ。


 おれは、靴を脱いで家の中に入る。おねーさんも、なんのまよいもなく、ふわふわとちゅうにうかびながら土足で俺の家にあがりこむ。


「とりっくおあとりーと?」

「トリックでお願いします!」


 おれは、トリックをおねがいした。そしてすばやく目を閉じた。さすがに家のなかでは何もおきないだろう。そして万が一、窓が開いてヤバい場所につながっても、目をとじておけば見てしまうこともない。うん、我ながら完璧な自己防衛手段だ。


 すると、おねーさんは、いままで聞いたことないことばを言った。


「いえす! とりっく!! とりっくあうおーたー!!」


 おねーさんは、パチンと指をならす。でも、なにもおきない。


「おっけー! うおーたー!! せってぃんぐ!」


 やっぱり、なにもおきない。


「しーゆー!」

 

 おねーさんは手をふりながら、ついでに悪魔みたいなシッポもふりふりしながら、フッと消えてしまった。でも、やっぱりなにもおきない。


 なにもおきない! そうゆうのもあるのか!!


 俺は心のそこからホッとした。今日は本当に災難つづきだった。厄日だった。そういえば今年のハロウィンは仏滅だった。


 おれは、どっとつかれて、とっとと風呂に入ってねることにした。

 脱衣所でとっととすっぱだかになって、風呂場のドアを開けた。


 ガラッ


「ええ!」


 おれの目の前には、シャワーをあびるカノがいた。なんにも着ていない、うまれたままのすがたのカノがいた。


「きゃあああああ!」


 おれは、カノが手に持ったシャワーのお湯をしたたか顔にあびると、おおあわてで風呂場のドアをしめた。


 俺は思った。カノ……結構おっきかったな。

 こうも思った。カノ……きれいな色をしていたな。

 最後にこう思った。明日……どんな顔して会えばいい?

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