7話 偽物

 私は小さくなった精霊に、ある考えを伝えた。


 実は以前この森に来た時に、気になる事があったのだ。

 まだ黒い影に侵食される前、森はとても綺麗ではあったが、小動物や虫さえいない環境のようだった。

 その上、枯れている葉や枝も全く見かけなかったのだ。


 芽が出て育ち、花を咲かせ、タネをつけて枯れていくという自然のサイクルが、止まっているように見えたのだ。

 多分、この精霊が上手くコントロールしていたに違いない。

 そして、この世界はカク達の住んでいる世界とも違い、季節がないのだ。

 いつでも、春のような暖かさで過ごしやすい環境のようなのだ。

 この森の環境は植物達には最高かもしれないが、とても不自然に感じたのだ。


 私はこの黒い影達との共存で、森を変えてしまう事が可能なのかを、その小さな精霊に尋ねてみた。

 

「ここも、昔は普通の森だったのです。

 私が自我を持つようになり、森全体とつながる事が出来る様になってから、綺麗な森を維持したいと強く思うようになったのです。

 舞の言う通り、上手くコントロールしていたわけなのです。

 ・・・でも、それは本来の森の姿ではないですね。

 もし、黒い影の意思が共存を考えるなら、私はこの森が変わってもかまいません。」


 後は黒い影達がどう思うかなのだ。


「確か、核になるものがあるって言ってたわよね?」


 私はさっき精霊から聞いた、核について確認したかった。


「ええ、います。

 私を追ってくる集団の中に存在します。

 それがこの黒い影の意思と言うべきものかもしれません。

 そしてブラックと戦っている集合体に、指示を出している感じです。

 私がここにいる事はバレたと思うので、すぐに核も現れるでしょう。」


 ブラックに目を向けると、なかなか減らない黒い塊にイライラしているようだった。

 消滅させても次から次へと集まってくるのだ。

 全体量としては減ってはいるのだろうが、まだまだ目に見えて存在するのだ。


 黒い影の塊は色々な魔獣に変化しては、ブラックに消滅させられていた。

 そして何か意図があるのか、今度は先程の精霊のように人型に変わったのだ。


 その時、ブラックの動きが止まったのだ。

 よく見ると精霊ではなく、若い女性のような姿になっていくのだ。

 一瞬、私に変化したのかと思ったのだが、違っていた。

 ブラックの顔を見たら、誰に変化しているかがわかったのだ。

 

「・・・この人がハナさんなのね。」


「ええ、そうです。

 私の記憶にあるハナの情報が奪われているので、そこから再現しているんですよ。」


 横にいる精霊がそう話してくれたのだ。

 偽物とわかっていても、ブラックにとっては懐かしく大事な人なのだ。

 それも500年ぶりに見る姿なのだ。

 動きが止まるのも無理は無い。

 この黒い影達はなんと残酷な事をするのだろう。


 そのハナさんの偽物は微笑みながらブラックに近づいて行ったのだ。

 流石にブラックも驚いただろうが、偽物とわかっているわけで、すぐに消滅させると思ったのだ。


 ところが、近づいてくる偽物を呆然と見ているだけで攻撃しようとはしなかったのだ。

 そして、何だか私の身体がチクチク痛み、痺れも感じてきたのだ。

 私に触れていた精霊も顔をしかめていたのだ。

 もしかすると、ブラックの結界が弱まっているのかもしれない。

 ハナさんの偽物に目を奪われ、結界に魔力を注ぐのがおろそかになっているのかも。

 このままでは、私やこの精霊もただでは済まないかもしれないのだ。

 私は何だかそんなブラックを見ていると、心までが痛く苦しく感じたのだ。

 もう、立っているのが辛くなり、膝を地面に着いた時、精一杯の声で叫んだのだ。


「ブラック、私を見て!」


 ブラックは私を見てハッとしたようで、すぐに痛みは消えて、私も精霊も安堵して大木に寄りかかったのだ。

 しかし、その時にはハナさんの偽物はブラックの目の前まで近づいていたのだ。

 にこやかな笑顔のまま、手には黒い影でできた刃物のようなもので、ブラックを刺そうとしていたのだ。

 その状況になっても、ブラックはその偽物を消滅させる事ができないでいたのだ。


 その時である。

 私や精霊がいる横の方から光の衝撃波が放たれて、ブラックに迫る偽物のハナさんを一瞬で消滅させたのだ。

 そして、だいぶ数は少なくなったようではあるが、黒い影の塊はまた集合して何かを作り出そうとしていたが、ただの塊のままで変化することは無かったのだ。


 そして、その光の衝撃波が放たれた所には、私も知っている二人の魔人が立っていたのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る