12話 森の記憶

 私は魔人の城の執務室で誰にも邪魔されず、やっとのんびりとお茶を飲む事が出来た。

 幹部達と話し合ったが、結局のところ今できる事は少なかったのだ。

 黒い翼の人物については何もわからないままなので、まずは情報収集につとめることにしたのだ。

 また、黒い影がこの国の何処かに存在していないかなど、巡回を強化することとしたのだ。

 人間や弱い魔獣に寄生されては困るのだ。

 今後、人間との付き合いを上手くしていくためにも、安全な国でなくてはならないのだ。

 舞の言う通り、森の精霊に話を聞きに行く事にした。

 舞も一緒に行きたかったようだが、あまり危険な目には合わせたく無いのだ。

 今回は私だけが行こうと思うのだ。

 正直、ハナの偽物を見た時に舞を危険に晒してしまったが、また同じ事が無いとは言えないのだ。

 ジルコンの言う通り、自分は情けないと思った。

 何が大事かを見誤ってはいけないのだ。

 ハナとの事は良い思い出なのだ。

 だが、今考えなければいけない事はそれでは無いのだ。


 次の日、私は森へ一人で向かった。

 森の入り口から真っ直ぐな小道を進み、大木の前にたどり着いた。

 精霊に呼びかけると枝が動き出し、また大木の横にトンネルが静かに作られたのだ。

 トンネルの中を進むと、そこには少年の形をした精霊が待っていたのだ。


「ブラックどうしたのです?

 しばらくはお会いする事は無いのかと思っていました。」


 精霊からは以前と同じような強い生命エネルギーが感じられたのである。

 元に戻っているようで安心したのだ。


「実は、あなたに聞きたいことがあって、すぐに伺ったわけです。」


 私は黒い翼の人物に心当たりが無いか聞いてみたのだ。


「うーん、思い当たりませんね。

 私の中の記憶は森の中の記憶であり、その周りの情報はあまり無いのですよ。」


「そうですか。

 何か手掛かりがあればと思い、伺ったのですが。」


「ブラック、もし約束を守ってくれるなら、時間を一緒に遡ってみますか?

 もしかしたら、私の記憶の片隅に何かわかる事があるかも知れません。」


「すごいですね。

 時間を遡れるのですか?

 約束とは?」


「私の中の記憶に入り込むだけですよ。

 さすがに昔の事全ては覚えてませんが、森の記憶は保存されています。

 ブラックが見れば、何か役に立つ事があるかも知れません。

 約束は大変な事ではありませんよ。

 ただの傍観者となり、記憶に干渉しないでください。

 もしも、記憶の中で何かを行えば、書き換えられてしまい、私の全ての記憶が歪んでしまいます。

 よろしいですか?」


 精霊は真剣な声で話したのだ。

 私が頷くと、精霊は少年の形から光の集合体のような姿に変わったのだ。

 そして以前と同じように椅子とテーブルが作られたので私はそこに座ったのだ。

 精霊は私を包み込むと、私は精霊の中に取り込まれたような気分となったのだ。


 目を開けると周りの風景が動き出したのだ。

森の記憶を遡っているので、先日の黒い影の件からどんどん昔に戻っていったのだ。

 私が望めば、視点を変える事ができ森全体を見ることもできたのだ。

 魔獣の動きはあったものの、気になるものは見つけられなかった。

 どんどん遡ると移住以前の森になり、自分自身やハナの姿を見る事が出来たのだ。

 懐かしくは思ったが、今はそれを見続けるわけにはいかないのだ。


 もっと遡っていこうとした時である。

 天空に黒い鳥のような存在を見つけたのだ。

 遠いためはっきりとはわからないが、空を飛ぶなんらかの生命がいたようなのだ。

 その後も、何回かその生命を見掛ける事はできたが、森の中に入ったり近づく事が無かったので詳しくはわからなかったのだ。

 どんどん遡ると森自体がかなり小さくなりあの大木が1本の若木に戻ったところで記憶は終わったのだ。

 私は気付くと元いた場所の椅子に座ったままであった。

 

「ブラック、どうでしたか?」


「やっぱり昔からいた存在のようですね。

 多分、黒い鳥のように見えたのが、きっと黒い翼の者達ですね。

 私たちが移住してからは、姿を見せてないと言う事は、こちらを警戒してのことかも知れません。

 気配を消していたのか、もしく何処か別の場所に普段は存在するのか。」


「・・・そうですか。

 これからも何か気になる事がありましたら、ブラックを呼びますね。」


 私は森を後にして色々考えてみた。


 今までなんのコンタクトもないと言う事は、特別こちらを気にしていないと言う事なのだろうか。

 すでに移住して500年も経つのだ。

 

 しかし、私の心が警戒せよと私自身に訴えかけているように感じたのだ。

 

 

 

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