3話 寄生
私達が森に入った瞬間、その黒い影のような物が近づいてきたのだ。
しかし直前まで来ると何かに弾かれたようになり、それ以上私達の近くに来ることは出来ないようだった。
それが、ブラックの張った結界なのだろう。
前と同じように真っ直ぐに道を進んだ。
そう言えば、ここを棲家にしていた魔獣達はどうしたのだろう。
こんな状況ではここに住むことは困難に感じたのだ。
ブラックに聞くと、ある程度の魔獣は無意識に結界を張っているので、このくらいの負のエネルギーの塊には問題ないとのことなのだ。
しかし、居心地が悪い事は確かなので、殆どは草原の方に移動しているらしい。
「ねえ、貴方なら、この黒い影のような物も消滅させる事が出来るかと思うのだけど。」
私はふと疑問に思った。
魔人の王であるブラックであれば問題なく対処出来たのではないかと。
「確かに。
出来なくはないのですが、これらを消滅する為には森全体を無くすしか私には出来ないのですよ。
この負エネルギーの塊は浮遊しているだけでなく、草木に寄生しているような状態になっているのですよ。
まあ、もし国に悪影響が出るのであれば、そうしなければいけないとは思ってますが。」
そう言うことか。
ハナさんの守った森を自分で消滅したくないのだろう。
だからその決断をする前に、私に何か出来ればと、呼んだわけなのだろう。
私もこの森自体が無くなってほしくはない。
あの木の精霊に会ってしまったからには、その存在自体を消滅させる事は避けたいと思うのだ。
真っ直ぐに進むと、大木のある広場に出たのだ。
以前と同じように大木は立っていたが、葉は殆ど落ちており、枝も乾燥して生気が見られなかった。
「もう、枯れてしまったのかしら?」
「いや、少しだけだが、生命エネルギーは感じますよ。」
草木に寄生していると言うのが気になるのだ。
いわゆる、ウイルスのような物なのかもしれない。
自分だけでは増殖出来ないが、寄生することで仲間を増やして行くような。
そうなると、宿主本体が強くならなけらばいけないのだ。
精霊を探さなければ。
前回は精霊の方から呼びかけてくれて、トンネルを作り導いてくれたのだ。
私達が来ている事はきっとわかっているはず。
だが、自分のところに導く力も残ってないのだろうか。
私は自分の世界から持ってきたある液体を出した。
そしてそのペットボトルに、ある漢方薬を入れ、カクの家からもらった風の鉱石の粉末を入れたのだ。
その中に入れた漢方は
ジオウ、トウキ、ビャクジュツ、ブクリョウ、ニンジン、ケイヒ、オンジ、シャクヤク、チンピ、オウギ、カンゾウ、ゴミン
が入っており、もともと疲労回復や感染症による全身衰弱、体力低下に用いられるのだ。
そこに、風の鉱石の粉末を入れる事で、この辺一帯に広がるように振り撒いたのだ。
持って来た液体はもともと植物に良いと言われている 窒素、リン酸、カリウム の配合から出来ている栄養剤なのだ。
これが効果があるかはわからないが、精霊のところまで導くだけの力が戻ればと思ったのだ。
正直、光の鉱石の粉末も転移の時に使った余りがあったので持って来ているのだが、これを使うのは怖かったのだ。
植物に寄生しているとするならば、宿主ではなくウイルスのような黒い影の力が増すことになっては困るからだ。
私がその液体を振り撒くと、柔らかな風が辺りに吹きだし、周辺の木々がザワザワと動き出したのである。
すると、以前よりは小さいが、人一人が通れるトンネルが作られたのだ。
しかし、あっという間に木々がまた動き出して、トンネルを塞ごうとしているのを見て、ブラックは私を抱え、瞬時に通り抜けたのだ。
「ありがとうございます。
私が走ったらきっと塞がれてました。」
「いえいえ。
一度行ったところなら瞬時に移動できたのですが、どうやら以前行った空間はその都度移動しているようなので、場所がわからなかったのです。
何かから逃げているような感じですね。」
「では、まだ精霊は大丈夫ということかしら?」
そう言った時、後ろに気配を感じたのである。
「舞、ブラック・・・私がわかりますか?」
そこには以前見た精霊とは違い、小さな子供のような形の者が存在した。
それは、輝きもなくなっており、弱っているように見えたのだ。
「いったいどうしたと言うのですか?」
私は駆け寄り、頭を撫でようとしたのだ。
その瞬間、その精霊と思われるものは弾かれて飛ばされたのだ。
「舞、それはあの精霊では無いようです、離れて。」
弾かれた精霊と思われた者は起き上がり、見る見る黒ずんで行き、森にいた黒い影の集合体のようなものになったのだ。
ブラックが攻撃しようとして左手を上げた時だった。
「舞、ブラック、こちらに。」
後ろから叫ぶ声が聞こえたのだ。
振り向くと先程と同じ子供のような形の精霊らしきものが木々の間から呼んでいるのだ。
また偽物ではと一瞬思ったが、小さな子供になっていても、以前と同じ透明感のある輝きを放っていたのだ。
「きっと本物だわ。」
私達は呼ぶ声の方に行き、木々の合間の入り口から入りこんだのだ。
すぐに入り口は閉ざされ、この精霊が作ったであろう空間に私たちは導かれたのだ。
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