10話 森の再生

 ブラックにより、黒い影の集合体は消滅した。

しかし、精霊の話によると数百年に一度現れるようで、また襲来してくる可能性はあるのだ。

 今回の事で、森だけではなく人にも影響がある事を考えると、今後また来るであろう黒い影達の対策も考えるべきなのかもしれない。

 まあ、何百年も先の事で私の関与できる事では無いのだが。

 しかし、私の考えは甘かったのだ。

 自分が良いと思う事でも、誰もが理解してくれるとは限らないのだ。

 その相手自身の考えや都合があるわけで、誰もが良い考えと思っても、当事者がNoと言えば何も出来ないのだ。

 結局はブラックのお陰で森を助けることができ、私は呼ばれてもあまり力になれなかった。

 自分の無力さを思い知ったのだ。

 所詮は普通の人間であり、秀でた能力もないのだ。

 私は黒い影が消滅した後の黒い粉を見ながら落胆していたのだ。


 そんな気持ちを知ってか、精霊が私に話をして来た。


「舞、お願いがあります。

 ハナにもらった薬から、私の中でその植物を育てる事ができました。

 舞からも黒い影に対抗できる薬をもう少しもらい、私の中で育てて行きたいのです。

 自分で対抗できる強さをつけたいのです。

 それに、この森の植物達も私の力がなくとも上手に命を繋ぎながら、繁栄してもらいたいです。

 私が関与し過ぎたせいで、本来の植物よりも弱くなっていたと思います。

 だから簡単に寄生されたのだと思います。

 少しだけ、手伝ってもらえますか?」


 子供のように見える精霊だが、私より何倍も大人の考えであるのだ。

 さすが、何百年も生きているだけあるのだ。


「ええ、もちろん。

 ただ、生薬の元となる植物はあなたの中だけで育ててくださいね。

 それだけは約束ですよ。」


 私にも出来る事があるのだと、ここに来た意味があったと思う事が出来たのだ。

 私はさっき使った薬を再度調合した。

 大木の根元に注ぐとキラキラ光る粉雪のようなものが舞い上がり、大木全体を再び包み込み吸収されたのだ。


 それを見てジルコンも両手を広げ、綺麗な光のシャワーのようなものを大木に浴びせたのだ。

 するとまだ弱っていた大木に沢山の新しい葉や枝が付き始めたのだ。

 そして、みるみる以前のような立派な木に戻ったのである。

 気付くと、隣の精霊も子供の姿から、初めて会った時と同じ少年のような風貌に戻っていたのだ。

 ジルコンの魔法は本当に素晴らしいと思うのだ。


「私が出来るのは、元の姿に戻すことくらいなのよ。

 あなたに元の力が戻れば、この森も大丈夫でしょ?」


「ええ。

 本当に皆さん、ありがとうございます。

 また来てくださいね。」


 精霊はそう言って名残惜しそうに手をいつまでも振っていたのだ。


 そして、私たちは精霊に別れを告げ、森を出る事にした。

 ただ、少しだけ心配な事があったのだ。

 はたして、あの黒い影達はほとんど消滅したと思っていいのだろうか?

 もちろん、数百年後にはまた襲撃があるかもしれないが、今回の件はこれで終わったと言えるのだろうか?

 多少残っていた黒い影があったとしても、いまの森であれば問題はないと思われる。

 しかし、もしまだ大量に何処かに存在しているとしたら、同じ事が繰り返されるだけでなく街にも影響があるかもしれないのだ。

 考え過ぎかもしれないと思ったが、森の出口に近づいた時にその心配が現実となったのだ。


 先頭を歩いていたユークレイスが急に止まったのである。


「ブラック様。

 この気配、わかりますか?」


「もちろんだよ。外に近づくにつれて強くなって来ましたからね。」


 そこには以前棲家としていたと思われる魔獣達が、何体か集まっていたのだ。

 黒い影達がいなくなった事に気付き、戻って来たのかと私は思ったのだ。

 ・・・しかし、そうでは無かったのだ。

 よく見ると先程まで存在したある気配と同じものがこの魔獣から感じられたのだ。


「舞、私のそばから離れないでね。」


 ジルコンが真剣な口調で話したので、私はジルコンの腕にしがみついたのだ。

 魔獣達は何故か森の中には入ろうとせず、唸り声を上げて威嚇しているのだ。

 多分、私が最後に振り撒いた薬のせいかもしれない。

 そう、やはり黒い影達はまだ存在していたのだ。

 それも厄介な事に、偽物を集合体で使っているわけではなく、魔獣に入り、操っているようにみえるのだ。

 

「確か、魔獣には無意識に結界を作る事が出来るはずでしたよね。

 それに、草原の方に移動していたはずなのに。」


 私はジルコンにつかまりながら、ブラックに聞いたのだ。


「そのはずでしたよ。

 なるほど、弱い魔獣だと、エネルギーを吸い取られて消滅していたのだと思っていました。

 しかし、入り込んで操作しているなんて驚きですね。」


 驚いてはいるようだが、ブラックは余裕の笑みを浮かべたのだ。


「魔獣を操作するとは、この影の存在は色々と進化を遂げていると言う事ですね。

 やはり放っておく事は出来ませんね。

 私たちの国を脅かす存在になるかもしれませんから。」


 ブラックはそう言うと、他の者はここで待機するように伝えた。

 そして自分だけ森の外に出て操られている魔獣に向かったのだ。

 

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