15話 アクア

 私達がカクのお屋敷に戻ると、何故かブラックが家の前で待っていたのだ。

 私はこれから魔人の国に向かうため、準備をしようと思っていたのだ。


「どうしてここに?」


 私は驚いてブラックの元にかけ寄ったのだ。


「何となく胸騒ぎがしたんですよ。

 舞、魔力の強い場所にいなかったですか?」


 このペンダントで私の状況がわかるらしいのだ。

 つまり私を守るために自動的に結界が張られるが、電池と同じで効果は持続的ではないのだ。

 ペンダントの魔力が減っている事が、ブラックにはわかるらしいのだ。

 なんとも凄い代物なのだ。


 カクは不満げな顔をしていたが、先にお屋敷に入っているようにと伝えたのだ。

 そしてブラックに魔人の城の跡地と言われているところで、ドラゴンのような大きな怪物に会ったことを話したのだ。

 そしてかなり弱っており、ブラックとの契約でその場から動く事が出来ないので、復活した事を伝えて欲しいと頼まれたと話したのだ。


「ああ・・・そうだったのですね。

 まさか復活しているとは思いもしませんでした。

 あの時、ハナの薬で消滅寸前のところを城に運んだのですよ。

 だが、その後は長くはもたなかったのですよ。」


「あの、契約とは何なのかしら?」


「あの子はかつてはかなり私を困らせたのですよ。

 少し、乱暴なところがあったので、私が良いと言わなければ、城から出れないという契約を結んだんですよ。

 今も、額に石がありましたか?」


「ええ。

 だから、私が付けているペンダントに反応して呼び寄せられたんです。」


 つまり、石が外れれば自由という事なのだろう。

 まあ、自由にして良いかはわからないけれど。

 ブラックがここにいるなら、すぐに戻る事が出来るので、カクに少しだけ出かけてくることを告げたのだ。

 ブラックは私の手を取ると一瞬であの死の大地と言われている場所に着いたのだ。

 数時間かけて戻って来たのに、あっという間に着くなんて、魔人はなんて便利なんだろう。

 

「この辺は確かに人間にはきついかもしれませんね。

 地上の建物は全て消滅させてから移住したのです。 

 でも、地下はそのまま残して来たのですよ。」


 そう言って地下に移動し、すぐにあのドラゴンのところに向かったのだ。

 しかし、数時間前まではそこに存在した大きな怪物が消えていたのだ。

 あんなに大きな存在がどこかにいればすぐわかるはずなのだが、見当たらないのだ。

 私は自分の使った薬が原因で、問題が起きたのではと心配になったのだ。


「ここにいたのにどこに行ったのかしら?」


 私が不安そうに言うとブラックが笑ったのだ。


「はは。大丈夫ですよ。

 あそこに隠れてますよ。

 気配を感じますから。」


 あの大きな怪物が隠れる場所などないはずなのに、どう隠れているというのだろう。

 そう思った時、柱の影からこっちを見ている10歳くらいの男の子が見えたのだ。


「え、まさかあの子が?」


 ブラックは微笑みながら、私に頷いたのだ。


「アクア、こっちに来なさい。」


 ブラックがそう言うと、その子は駆け出して来たのだ。

 だが、ブラックを通り過ぎ私に抱きついてきたのだ。


「私は元気になれたぞ。

 お前のおかげた。

 感謝する。」


 なんだろう・・・可愛い男の子の風貌なのに上から目線の話し方。

 中身はおじさんなのではとちょっと思ってしまった。

 ブラックの話によると、このアクアと言う少年?はドラゴンの血を引く者で、魔人でも魔獣でもなく、少し特殊な存在のようなのだ。

 身体が弱ると本来のドラゴンの風貌でしかいられないのだが、普段は魔人や人間と同じような存在にもなれると言う。

 見た目は子供に見えるが、ブラックが知る限り消滅していた500年を差し引いても200年は生きているようだ。

 このアクアの一族は全て滅んでしまい、アクアのみが存在するという。

 昔、まだ小さい時にブラックに助けられ、その時から仕えているようだが、あまり従順な部下では無いようだ。

 その為、ブラックの使う石を使い制限をかけていたようなのだ。


「アクア、私を呼んでいたのではないのか?

 舞から離れなさい。」


 ブラックがイラッとした感じで話していた。


「おお、舞と言うのか。

 先程の薬のおかげでだいぶ力が戻ったのだ。

 昔も舞のような人間がブラックの元に来ていた事があるぞ。」


「舞、帰りましょう。

 私が来る必要は無かったようです。」


 そう言って、私の手を掴み移動しようとすると、慌ててアクアはブラックの元にひざまづいたのだ。


「申し訳ありません。

 ブラック様の到着を長らくお待ちしておりました。

 何卒、私も外の世界に連れて行っていただけますでしょうか?」


 初めからこの態度をすればいいのに、その辺がブラックを困らせているところなのかもしれない。

 ただ、何となく憎めないところがあって、ブラックも本気ではあまり怒らないようだ。


「では、ちゃんと私の指示に従ってくださいね。」


 そう言うと、アクアの額にある石が光りアクアの呪縛を解いたのだ。


「では、外に出ましょう。

 アクアは私と共に魔人の住む世界に来てください。」


 ブラックは移住についてや、現在の人間との付き合いについてなどアクアに伝えたのだ。

 素直に話を聞いていたのも束の間、500年ぶりに地上に出ると興奮してほとんど聞いていなかったようだ。

 まあ、無理もないのだ。

 やっと自由になれなのだから。

 他の復活した魔人たちと違い、意識だけがずっと地下に存在していただけなのだ。

 肉体が復活しても体は弱り外にも出れず、想像するだけでも恐ろしい事なのだ。

 私が人間だから、そう思うだろうか?

 

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