Epilogue
波の音が聞こえる。
故郷のそれより少し乱暴だけど、でも、故郷のそれによく似た、優しい響きを伴って。
雫。
越してきた西海岸の海は、そんな、僕たちのすべてを包み込んでくれるような、ぬくもりと、広大さと、ほんの少し、君によく似た気まぐれさを携えている。
その気まぐれさがいい。
その気まぐれさが、僕は、すごく好きだ。
まるで君のようなその気まぐれさが、僕は本当に大好きで、それは君が大好きだった人たちの残像を、映し出してくれる。
霞む朝靄の向こう側や、時に荒立つ波の飛沫の中や、すっと凪いだ水平線と空の溶けあう、曖昧な境界の中に。
雫。
この海を見て僕は、君を思い出す。
この海のずっと向こうの、ずっと向こうだけど、確実につながっている海の向こうの、故郷の島と、君と過ごしたほんの数日を、僕は、思い出すんだ。
そう、つながっているから。
君が求めたように。
君も。
僕も。
もちろん父も、君の母も。
雫。
ひとつ君に伝えたい事がある。
この地で生まれた新しい命、新しい血が、ちゃんと君の宿命を引き継いで、家族とつながると言う宿命を継いで、僕らの元に舞い降りたんだ。
砂浜へ続くなだらかな坂を、今、ほら、優希の腕に抱かれて、隣を歩く兄に見守られて、その新しい命が、僕に向かってくる。
優希は笑っている。
その子の兄も笑っている。
だから、優希の腕に抱かれた新しい命も、きっと、笑っている。
―――雫。
新しい命に、僕はそう名付けた。
いいだろう?
君によく似た、清々しくて、凛々として、そして強い笑顔を腕に抱いた優希に向ける、その女の子に。
僕は名付けた。
雫という、君の名を。
DESCENDED 北溜 @northpoint
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