愛情。それは、時に呪いにさえなり得る。
互いに同じレベルの愛で向き合うならば、そこには永遠とも思えるほどの幸せな調和が生まれるのだろう。
けれど、その想いが、完全な一方通行だった場合——愛してしまった側の苦痛は計り知れない。
これは、そこにあった愛をすぐに忘れ去った男と、去った男への愛が呪いに変わった女と、その男女を父母に持つ娘の物語だ。
置き去りにされた母の、男への狂おしい想いを目の当たりにしてきた娘・雫。男への愛情に囚われたまま自ら命を経った母の、愛おしい男への「呪い」は、いつしか雫へも乗り移った。
夜の街、一流ホテルの一角で出会った目の前の男が父だと一目で気づく雫。雫を実の娘と気づかないまま、愛を注ぎ始める男。
この物語のクライマックスで、男は「愛」が「呪い」に変わり得るのだとおそらく初めて知った事だろう。
けれど、雫にとっては、父への想いこそ初めて味わう本当の愛情であり——。
血が繋がっているからこそ、強く惹かれ合う。これはむしろ起こり得ることではないかとさえ思う。愛情を向ける相手とは、果たして第三者から規制をかけられるような性質のものなのか。改めて、そんなことを強烈に思った。
愛情とは何か。愛とは、本当に全ての者に幸せをもたらす感情なのか。そんな根本の部分を激しく揺さぶる、深くて強い苦味を伴う物語だ。
新宿には二つの顔がある。高いところから見下ろせばキラキラと華やいだ景色が広がり、華やいだネオンの中へ踏み込めば誰しもが経験できるわけではない闇が広がっている。主人公の少女は、若くしてその両方を見ることとなってしまった。小さい頃にかけられた呪いによって、見るつもりもなかったのに見てしまった。
10代という短い期間で見聞きし体験したことの描写が、一つ一つ丁寧で生々しく、こういう人も実際にいるんだろうなという気持ちを抱かせてくれる。そして、ぐいぐいと世界観に惹き込まれ、いつのまにか少女を俯瞰的に眺めて見守っている自分に気付く。
短編でもボリュームのある構成とブレの無い筆力、読んだことで何かに気付ける要素は多いです。是非、ご一読あれ☆