愛とは、本当に全ての者に幸せをもたらす感情なのか。

愛情。それは、時に呪いにさえなり得る。
互いに同じレベルの愛で向き合うならば、そこには永遠とも思えるほどの幸せな調和が生まれるのだろう。
けれど、その想いが、完全な一方通行だった場合——愛してしまった側の苦痛は計り知れない。
これは、そこにあった愛をすぐに忘れ去った男と、去った男への愛が呪いに変わった女と、その男女を父母に持つ娘の物語だ。

置き去りにされた母の、男への狂おしい想いを目の当たりにしてきた娘・雫。男への愛情に囚われたまま自ら命を経った母の、愛おしい男への「呪い」は、いつしか雫へも乗り移った。
夜の街、一流ホテルの一角で出会った目の前の男が父だと一目で気づく雫。雫を実の娘と気づかないまま、愛を注ぎ始める男。
この物語のクライマックスで、男は「愛」が「呪い」に変わり得るのだとおそらく初めて知った事だろう。
けれど、雫にとっては、父への想いこそ初めて味わう本当の愛情であり——。
血が繋がっているからこそ、強く惹かれ合う。これはむしろ起こり得ることではないかとさえ思う。愛情を向ける相手とは、果たして第三者から規制をかけられるような性質のものなのか。改めて、そんなことを強烈に思った。

愛情とは何か。愛とは、本当に全ての者に幸せをもたらす感情なのか。そんな根本の部分を激しく揺さぶる、深くて強い苦味を伴う物語だ。

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