ほのかに澱んで、それでいて光沢を放つ石のように得も言われぬ作品


 私は、こういった短編小説において登場人物の魅力の七割を伝えるのはその台詞だと思っているのですが、この作品では二人の喋り方は溶けあうように似ているけれど、翠くんの口調は一見まるで宙にふわふわと浮いたように頼りなく、その育ちの歪さを象徴します。
 一方、翔くんはどこか声に軽妙な印象があって読者を物語にぐっと近づけてくれるでしょう。
 きれいな対になっているように見える彼らですが、根底の地獄は非常に似通ったものがあるのではないでしょうか。
 もうこうなってしまっては彼らの歪な世界には二人の他には誰もいないのだろうと思うとその甘やかさが心地よいです。

 BLとしてだけではなく、ふたりの男子の関係性を描いた作品としてとても胸を衝く魅力的な作品でした。
 ぜひあなたもどうぞ。

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