それぞれ複雑な家庭に生まれた子供ふたりの、とある小さな旅の物語。
シリアスな現代ものです。タイトルのぱっと見の印象とは全然違った雰囲気でありながら、でも確かにタイトル通りの内容ではあるお話。
嬉しいタイトル詐欺というか、単なる意外性以上のものをぶつけてくれるところが素敵でした。まさに物語で殴りつけられた感じ。
ままならない現実と、そのどうしようもない行く末が描かれており、ざっくりいうなら悲劇、ということになるとは思うのですけれど。しかしただ悲しいばかりではない、彼らの精一杯の行動が胸に刺さります。
現実はどうにも変えようがないし、その旅は逃避行にもならない短いもので、しかも最初から彼ら自身にもそれはわかっているのに、それでも進んだ小さな旅路。無駄で無益な抵抗かもしれないけれど、それでもきっと大事なよすがになるかもしれない何か。
とても綺麗で、でもこれを勝手な傍観者目線で「美しい」なんて評してしまうのは、それはそれで彼らに申し訳ないかなあ、なんて思ってしまうお話です。
地獄の底のような悲劇でありながら、でもそこにキラキラ光る小さな宝石を見つけたかのような、寂しくも素敵な作品でした。
私は、こういった短編小説において登場人物の魅力の七割を伝えるのはその台詞だと思っているのですが、この作品では二人の喋り方は溶けあうように似ているけれど、翠くんの口調は一見まるで宙にふわふわと浮いたように頼りなく、その育ちの歪さを象徴します。
一方、翔くんはどこか声に軽妙な印象があって読者を物語にぐっと近づけてくれるでしょう。
きれいな対になっているように見える彼らですが、根底の地獄は非常に似通ったものがあるのではないでしょうか。
もうこうなってしまっては彼らの歪な世界には二人の他には誰もいないのだろうと思うとその甘やかさが心地よいです。
BLとしてだけではなく、ふたりの男子の関係性を描いた作品としてとても胸を衝く魅力的な作品でした。
ぜひあなたもどうぞ。