第16話 隣室での会話 序編 side妹
今、私――優菜――はお母さんと一緒に、お兄ちゃんと音楽活動をしているらしい二人の女性と向かい合って座っています。私の隣がお母さんで、向かい側に彼女たちと言う構図です。
そしてお母さんは、向かいに座っている彼女たちを無言で見つめています。
一方、彼女たちは緊張した顔をしつつも、その目はしっかりとお母さんを見つめ返していました。
――彼女たちのその目には、どこか強い意志が宿っているように見えました。
ここで、何故このような状況になったかというと、それは――――
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「早く帰ってお兄ちゃんに構ってもらおう!!」
部活が長引いたせいですっかり暗くなった空を見上げ、私はそう心に決めると、全力で家に向かって走り出す。
「……これは最高記録が出たかも知れない!さすがお兄ちゃん!」
お兄ちゃんに会いたい一心で走った結果、いつもより早く走ることが出来た私はそんなことを考える。
そして家に到着しドアを開けると、玄関にはどこかそわそわしたお母さんが居ました。
「あっ……優菜。……お帰りなさい。」
「?……お母さんどうかしたの?」
お母さんの様子がおかしいことに気付いた私は、そう言いました。
すると――
「実はね、まだ優ちゃんが帰ってきてないのよ……」
――そうお母さんは言いました。
「……え?お兄ちゃんが……?」
その言葉を聞いて、私はいつもお兄ちゃんの靴が置かれている場所に目を向けます。
――しかし、そこにはお兄ちゃんの靴はありませんでした。
「……お母さん。部屋には――」
「――ええ。勿論家中探したわ。だけど……」
お母さん表情を見れば、その先は聞かなくても容易に想像がつきます。
つまりお兄ちゃんはまだ帰ってきていない……もしくは誰かに――――
「――っ!! お母さん!電話は?!メッセージは送ったの?!」
「ええ。もう何回も。だけど……」
嫌な想像をしてしまった私は、それを取り払う勢いでお母さんに言いました。
しかし、お母さんの返答はよくありませんでした。
――そんな。お兄ちゃん……!!もしかしたら――
――い、いや……落ち着け私! まだそうと決まったわけじゃ無い。
「……い、一応私も電話とかメッセージ送ってみるね……」
どうにか心落ち着かせた私は、お母さんにそう言ってから、電話をかけメッセージを送ります。
――しかしお母さん同様繋がることはありませんでした。
「……ごめん。私も繋がらない。」
「……そう。――こんなことならもっと早く護衛官を雇っておけばよかったわ……。」
私も繋がらないことを知ると、お母さんは悲しそうにそう言いました。
――護衛官。それは女性にとって最も憧れる職業の一つで、男性を守る人たちのこと。
護衛官になるには、とても難しい試験を乗り越える必要があるというのは有名です。
お母さんと私は、お兄ちゃんが秀英学園に通うことになった時、護衛官を雇うかどうかを考えたことがありました。
しかし、その時の結論は雇わないでした。と言うのも、護衛官を雇うのにはお金がかかるというのもありますが、一番の理由は、お兄ちゃんの傍によく知らない女性を置きたくなかったからです。
――いくら護衛官だと言っても、やはり一人の女性です。中には我慢しきれず男性を襲った人も居るのです。
そしてお兄ちゃんは、誰が見ても格好いいと思うほどの男性です。
そんな男性の傍にずっといて我慢できる護衛官が居るでしょうか。いや、居ません。
――私とお母さんはそう結論を出して、護衛官を雇うという話は無くなりました。
しかし、今回はそれが裏目に出てしまいました。
もし仮に護衛官――信頼の置ける――を雇っていれば、今の状況を正確に把握することが出来たでしょう。
と言うのも、ただお兄ちゃんと連絡が繋がらないだけなら、護衛官に連絡をとればわかります。
そしてお兄ちゃんが危ない目に遭っているのなら、護衛官が守ってくれるからです。
「……警察に連絡しましょう。」
「……そうだよね。……それしか無いと思うよ。」
お母さんの言葉に私はそう返しました。
そして、お母さんが警察に連絡をしようとした瞬間――
「プルルル プルルル」
――と、お母さんのスマホの着信音が鳴り響きました。
そして、画面には「優ちゃん」と書いてありました。
「っ!!お母さん!これって――」
「――ええ!きっと――」
そう言ってお母さんは電話に出ると、やはりお兄ちゃんだったらしく、私に嬉しそうに報告してきます。
一方私も、お兄ちゃんと連絡が繋がったことが想像よりも嬉しくて、お母さんのスマホをつい奪ってしまいいました。
そして、お兄ちゃんの声が聞こえてきたことで感情が膨れ上がってしまい、叫んでしまいました。さらには嬉しくなり、勢いよく早口で質問攻めにしてしまいました。――を口が滑って変なことを言ってしまったかもしれません。
そして続けざまにお兄ちゃんと話そうとすると、さすがにお母さんにスマホを奪い返されてしまいました。
――もっと話していたかったです。
そしてお母さんがお兄ちゃんと話し始めました。
――しばらく話を聞いてわかったことは、お兄ちゃんは誰かに危ない目に遭わされたわけでは無く、まだ学校にいること。そして、学校で音楽活動をする同好会を作り、その活動をしていたということでした。……女2人と。
お兄ちゃんが無事で安心しましたが、むしろこれからの方が危険だ、と私は思いました。
――だから嫌だったのです。お兄ちゃんが共学校に行くのは。
あのお兄ちゃんのことだからモテないはずがありません。もしかしたらもう既にファンクラブとか出来てそうです。――いや、私の直感がもう既にファンクラブが存在していると言っています。……後ほど調査が必要ですね。
しかし私とて、男性の義務――18歳までに婚約者を作ること――は理解しています。
そして、お兄ちゃんが共学校に行くのは、自分で考えて婚約者を作るためだと言うことも。
――しかし。そう。ですが。……兄妹で婚約してはいけない、などという法律は何処にも存在していないのです!
――つまりお兄ちゃんには私がいるから、共学校に行く必要は無いのです……。
――そうお兄ちゃんに言えればどれほど良かったでしょう。
残念ながら私は勇気が出なく、その言葉を発することが出来ませんでした。
と言うのも、この現代社会において近親婚はあまり良いことでは無い、という風習があるからです。
確かに昔――男女の数が同じくらいだった時代――は、科学的に「共通の劣性遺伝子が発現しやすく」――などという根拠に基づく理由はありました。しかし、現代ではその遺伝子問題は解決されています。
なので仮に、あくまでも仮にですが、お兄ちゃんと結婚して子供を作っても何ら問題は無いのです。
むしろ少子化が進んでいるので、子供を作ることは良いことです。
しかし、現代を構成するのは昔からの積み重ねであるように、そういう風潮の多くも残ってしまっているのです。
なので近親婚は、あまり喜ばれるものではないと思われているのです。
……もしかすると、男性が身内と結婚すれば、自分たちの結婚のチャンスが減ると考えた人達がそういう噂を流しているだけかもしれませんが。――いやこちらの方が可能性は高そうです。
――しばらくして、私は頭の中での葛藤を中断してお母さんを見ると、お母さんはすでに電話を終えていて、どこかに出かける準備をしていました。――それも、いつもより真剣に丁寧に。
「お兄ちゃんを迎えに行くの?」
お母さんの様子からそう思ったので聞いてみました。
「そうよ。――けれど他にもあるわ。」
「え?他にも?」
「ええ。……例えば、優ちゃんと一緒に同好会を始めた2人がどんな子か――、とか。」」
「……っ!!……そ、それって! ――わ、私も行く!!」
お母さんの狙いを理解した私は、お兄ちゃんの迎えに同行することにしました。
「これはお兄ちゃんを守るために必要なこと!だから待っててお兄ちゃん!私が2人の化けの皮をはいであげるからね!」
――こうして
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