第3話 この世界の歪さと看護師

「コンコン」


静かにドアをノックする音が聞こえてくる。


看護師が朝の検診にでも来たのだろうか。



「はい。どうぞ。」



「えっ?!」



「え?」



俺が返事をしたことが予想外だったのかはわからないが、何故か看護師さんは慌てふためいたまま「返事をしてくれた?!」や「男の人と話せた!?」と扉の前で小声で騒いだり喜んだりしている。


対して俺は、それに気付くことなく、先ほどまで記憶の整理と心を落ち着かせていたため冷静に返答することが出来た。



「し、失礼しましゅ!!」



「しゅ……?」



看護師さんは、なぜこんなに慌ててるんだろう。


俺は少し不思議に思いつつ扉を眺めると、そこには美少女がいた。

黒髪のボニーテール。顔の造形が良いからか、メイクは薄めだが美しく儚い印象を

与える。服装は看護師の代名詞であるナース服である。


――心なしか、スカートが短い気がするが。



「あっ、あの……どうかされましたか……?そんなに見つめられると……」



「……っはい?! だ、大丈夫です。」



声を掛けられるまで、看護師さんを無意識に見つめてしまった。

そんな自分を少し恥ずかしいと思いつつも、気付かれないように振る舞う。



「し、診察を始めたいのですが……、宜しいでしょうか……?」



「診察ですか?はい、よろしくお願いします。」



俺の返事を聞き終えると、看護師さんは何故か顔を赤らめ、ぎこちない動きをしながら診察をしてくれる。



「……い、今のところは、特に異常はありません。気になるところはありますか……?」



「いえ、ありません。……………あ、そういえば、自分は何で入院しているんですか?」



「えっ」



看護師さんにそう質問をすると絶句されてしまった。



「き、記憶が無いんですか……?」



看護師さんに言われて、「そういえば前世の記憶はあるがこの身体の持ち主の記憶は無いな。」と気付く。


  ――――どうしよう。なんて答えれば良いんだ……。


 「実は死んで転生したらこの身体になってたんですけど、この人の記憶は無かったです!」などと言えれば良いが、そんなことを言えば信じる以前に頭おかしい

やつ認定されてしまうのがおちだろう。


     …………だとすればここは、記憶喪失ということにするのが妥当だろう。



「はい……実は記憶喪失みたいです……」



「?!そっ、そうなんですか……それは……なんと言って良いか……すみません……。で、でも……まだ記憶が戻らないと決まったわけでは無いですから……!! い、一緒に頑張りましょう!」



記憶喪失と答えると、看護師さんはこちらの気持ちを慮ってか励ましてくれた。

俺としては記憶が戻らない方が都合が良い――戻ると会話が噛み合わなくなる――のでショックは受けていないが、

看護師さんという協力してくれる人がいるので、こちらの世界についての情報を教えてもらおう。



「えっとじゃあ、この世界の基本的なこととか何でもいいので教えて頂けませんか?」



「も、もちろんです!! えっと……まず、この世界の人口は――――」



あれから数分かけてこの世界のことについて教えてもらった。そして――――



「えっと……何というか……」




――――なるほど。うん。やばい。看護師さんに話を聞いて理解したが、この世界は元いた世界ではない、別な世界。

所謂パラレルワールドだということがわかった。


具体的に言えば、世界の国の情勢などは殆ど変化は無い。日本もアメリカもロシアもある。


けど――――人口が圧倒的に少ない。しかも男女の比率が極端になってるし。

なんだよ、「日本の人口は5000万人で男女比が1:30」って。しかも世界中の国々で見ればまだ良い方とか……。


さらに「女子は殆どが美形なのに対して、男は男ってだけでモテるから清潔感も無く太ってて横暴な態度」とか……。世紀末かよ。


だから看護師さんは俺が普通に話したり返事をしていたからオドオドしていたのか…………。











――――よし、決めた。俺はこの世界の男を反面教師にする。男だからといって驕らない。努力も惜しまない。

男だからといって横暴な態度をとらないし、運動も勉強も頑張る。人に優しくする。

そして、前世で出来なかった親孝行。そして何より――――



「モテたい」



そう。モテたい。これが俺の前世からの強い感情でもあったし、そのために人に優しくしたりした。が、モテなかった。

やはり、モテるには優しさだけでは不十分という教訓を前世の一生を賭けて学んだのだろう俺は。


なら――今世の目標は「モテること」しかないだろう。

幸い顔の方は黙っていてもモテるくらいには整っている。


しかし、それだけでは足りない。

もっともっともっとモテて――――ハーレムを作りたい。


そのためには将来自分でお金を稼げるようにもなる必要があるだろう。

この世界の男のように女ばかりに金を出させるなんてことはしない。

前世の経験や流行ったことなどは俺の知識としてある。それだけじゃない。

自分で会社を立ち上げるのも良いだろう。

そのためには如何に知識があろうとも努力は必要だろう。大変だろう。


けど。それでも――――ハーレムを作るためならば俺は努力する。










「あ、あのう……」



「……はっ?!すいません。情報を整理してました。」



――いかん。何か黒い欲望が心の中で暴れ回っていた。まだまだ先のことだ。焦らず先ずは目先のことをコツコツ頑張ろう。



……そういえば、看護師さんの名前を名前を聞いていなかったな。



「あの、看護師さん。」



「は、はい!!」



「えっと……名前聞いても良いですか?」



「あ……!!名乗ってなかったですね。わ、私の名前は池田(いけだ)瑠美(るみ)といいます。22歳です。…………独身です。」



「え?!とても若いですね!それに独身?!とても綺麗なので結婚していると思ってました!」



「え……?綺麗?私が?」



「はい。綺麗だと思います。」



「あ、ありがとうごさいます……男の人にそう言われたのは初めてです……」



「それは良かっ――――」



「――――そもそも男の人と話したのが初めてですが……」



――どうやら無意識にこの世界をなめていたらしい。こんなに綺麗な人でも男と会話したこと無いなんて。

前世で言えばそこらのモデルでは到底太刀打ち出来ないほど綺麗なのに。

この世界は思ったよりも女性に厳しいらしい。逆に俺にとっては甘いが。



「そうなんですか……とても光栄です。男として。」



「??……いえいえ。こちらこそありがとうございます。」



それからしばらく瑠美さんと会話をして過ごした。転生させてくれた神様に感謝をしながら――――

























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