第7話 受験
朝の柔らかい日差しによって目が覚める。
「今日は良い天気だな。受験日和だ。」
そんなことを考えつつ、俺は持ち物の確認をする。
――そう。今日は受験日当日である。
「今日まであっという間だったなぁ。」
転生してからの事を、俺は思い返していた。
いろんな事があったが、そのどれもが良い思い出だ。
――でも、ここからだ。俺の第二の人生が本当に始まるのは。
俺は何故転生してから今日まで勉強をしてきたのか。
俺は何故転生してから今日まで運動をしてきたのか。
――そう。それはモテたいからである。目指せハーレム!
――そのために努力を惜しまず頑張った。
――なら、後は結果を出すのみ!
「よしっ!!」
準備を終えた俺は自分自身に気合いを入れ、母さんと優菜のいるリビングへと向かった。
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俺はリビングへと続くドアを開けて挨拶をする。
「おはよう!」
「あ、優ちゃん!おはよう!」
「お兄ちゃんおはよー!」
俺がそう元気よく挨拶をすると、母さんと優菜も負けじと元気よく返してくれた。
「優ちゃん、いつもより元気が良いわね。」
「たしかにー!何かあったの?」
二人にそう言われて、「顔に出てたのか」と恥ずかしく思った。
「か、可愛いわ……。優ちゃんの照れた顔……ボソボソ……」
「た、たしかに可愛い……ボソボソ……」
二人の言葉にいたたまれなくなった俺は、妹に向かって微笑む。
「――ってお兄ちゃん!その顔危険!絶対に私以外にしちゃだめだよ!?」
微笑んだだけでこの言われようである。お兄ちゃん悲しい。
「危険って何だよ。失礼な。」
そう言いながら俺は、テーブルに用意されている朝食を食べるために席に座る。
すると、母さんと優菜もソファーから席に移動した。
「今日くらいは朝は一緒に食べましょ?」
母さんにそう言われて俺は、ランニングをするために朝ご飯の時間を早くしていた事を思い出した。
――そう。今日まで、みんなで一緒に朝ご飯を食べていなかったのだ。
――俺は今更ながら、朝から母さんと優菜が元気な理由がわかった。
「うん、そうだね。それと、明日からは一緒に朝ご飯食べよう?」
「優ちゃんいいの?」
「うん。勿論!」
そう言うと、母さんと優菜は嬉しそうな顔をした。
――うん。これからは、こういう家族の時間も大事にしないとね。
――俺はそう心に刻んだ。
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「そろそろ行きましょうか。」
朝食を終えてみんなでゆっくりとしている時、母さんがそう言った。
「えー!もう行くのー?やだやだやだやだー!」
そう言って優菜は駄々をこね、俺を涙目で見つめてくる。
「ご、ごめんな。優菜。………じゃあ帰ったら一緒にゆっくりしよう?」
俺がそう言うと、優菜の涙目だった顔が嘘であったかのように笑顔になった。
「ゆ、優菜……?」
「なーに♪お兄ちゃん♪」
そう答える優菜は嬉しそうにしていた。――これが女の本気なのか。
-――俺は我が妹ながら優菜を末恐ろしく感じた。
「い、いや、何でも無いよ。 ……じゃあ、母さん行こっか」
「ふふ。そうね。」
――そんな俺と優菜を母さんは嬉しそうに見ていたのだった。
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「じゃあ行ってくるね。」
俺は車の中にいる母さんにそう言った。
「いってらっしゃい。頑張ってね!」
俺は母さんの応援を背に学園の校門へと進んでいく。
どうやらこの世界の共学校と男子校は、受験生へ校門前で受験票の確認をしているらしい。
――過去に何かあったんだろうか。
そんなことを考えながら校門前に到着すると、そこにはあふれんばかりの受験者がいた。
「これは…すごい数だなぁ。」
――ざっと2000人くらいはいるだろうか。さすが共学校の偏差値トップである。
ただ、それでも男子が毎年0人なのがあるのか、柏原には大きく劣るらしいが。
呆けていても仕方が無いので受け付けの長蛇の列に並ぶことにした。
――するとやはりというか俺の周囲がざわつき始めた。
「え?!男子?!」
「ほんとだ?!今年は男子がいる?!」
「ええ!?まって!?受かったら一緒の学校に通えるの?!」
「ってかめっちゃイケメンー!?」
「ほんとだ!!」 「どこかのアイドルかな!?」
「私は見たこと無いよ?!」「私も!」
――こ、これどうしようかな。と思っていたら受付の人が急いで来てくれた。
「す、すみません!えっと、く、倉部優成さんですか…?」
「はい。そうです。えっと……?」
「あ、私はこの学園の教師をしている新本といいます!!
じ、実は、倉部さんが来たら皆さん混乱すると思ったので、先に受付を行うようにと指示がありました!」
「ああ、そうだったんですね。……すみません。助かります。」
「いっ、いえいえ!恐縮です!!」
そう言って俺は新本先生の後に続く。
そのたびに周りから視線を感じるので、どんな反応をされるのか気になった俺は手を振ってみた。
「っ……」 「う……」「 はぅ……」
――俺の予想では前世のアイドルみたいに「キャー!!」みたいな反応をされると思っていたのだが、まさかの無言である。
「ちょっと調子に乗ってたかな……」
俺は自分が浮かれていたことに気付き、恥ずかしくなった。
この世界にイケメンで転生したことで、調子に乗っていたのかもしれない。
そう考えていたのだがよく見ると、彼女らは皆一様に顔を赤らめ、放心していた。
――どうやら逆で刺激が強すぎたようだ。
「前世のアイドルは、こういう視線を常に浴びてたのかなぁ。」
――俺はそんな彼等に嫉妬心を抱いた。そしてそんな彼女らの様子を見ると無性に嬉しく感じた。
「この世界でアイドルをやるのも良いかもな。」
――そう思った。
そうしてる間に俺は、新本先生に連れられて受付を終えることができた。
「で、では、私はこれで。受験頑張ってください!」
「はい!ありがとうございました!」
そう言って新本先生は持ち場に戻っていった。
「よし。じゃあ、受験会場に行くか。」
俺は受付でもらった校内図をみながら会場を目指す。
――しかし、かなり大きいな。この学園。大学より大きいぞ。普通に迷いそうだな。
――けど逆に、グラウンドとかもたくさんあるし、部活は盛んなんだろう。
やっぱり秀英にして良かった。そんなことを考えながら歩いていると、前方にトイレが見えてきた。
「一応試験前に行っとくか。」
そう考えた俺はトイレに入る。
すると、一応共学校だからかきちんと男子トイレ――それも鍵付き――があった。
入ってみると中は、受験生に男子がいると知ったからか、埃一つ無いほど綺麗であった。
「俺一人しかいないのにここまで綺麗なのはこの世界特有なのだろう。」
俺は感心しつつも、トイレを済ませる。
そして、トイレを済ませ入り口から出ると、何やら困り果てている一人の受験生がいた。
「どうかしましたか?」
俺がそう声をかけると、彼女は俺を見てびっくりしていた。
「だ、男性がこんな所に……。も、も、も、もしかして同じ受験生?!」
「うん。そうだよ。」
俺がそう答えると彼女は嬉しそうな顔をした後、
直ぐに何かを思いだして恥ずかしそうな顔に変化させた。
「えっと、どうかした?」
「あっ……、うん……、えっと……ね。実は、道に迷っちゃって……えへへ……
私っておっちょこちょいだから……。」
彼女はそう言いながら恥ずかしそうにする。
――なにこの子……めちゃくちゃ可愛いんですが……。
――何かこう、守ってあげたくなるな……。
――顔も俺のタイプだし……。
――俺はそんな彼女に見とれていた。
「あっあのっ……。どうかしましたか……??」
彼女は俺と目が合うと、顔を赤らめながらも心配そうにをこちらを見る。
「……あ、ああ。ごめん。……見とれちゃってた
俺がそう言うと彼女は更に顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「そ!それより! 道に迷ってるんだよね!?……良ければ受験会場まで一緒に行く?」
「……っ!! い、いいんですか……?! で、でも……ご迷惑をかけるわけには……。」
俺が自分の発言を誤魔化しつつそう言うと彼女はそれを嬉しそうにしたが、
俺に迷惑をかけると思い直し躊躇する。
「迷惑じゃ無いよ!……それとも俺じゃ嫌だった……?」
――少し意地悪だが俺は彼女と親しくなりたいので積極的に行く。
「そんな訳ありません!!むしろ……ゴニョゴニョ」
――後半は何を言ってるかよく聞こえなかったが、彼女も嫌ではないようだ。
「じゃあ、行こっか。」
「は、はい!」
――こうして俺と彼女は一緒に受験会場へ向かったのだった。
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「あ!彼女の名前聞くの忘れた!!」
受験会場まで一緒に来たものの、部屋は違う場所だったので彼女とそこで別れた。
そして自分の受験番号の部屋に入り、番号が書いてある席に座ってから俺は気付いた。
――そう。まさかの名前の聞き忘れである。彼女の情報は俺と同じで受験生ということ以外何もわからない。
――せめて、連絡先を交換しておけば……。後は彼女が合格することを祈るしかないか……。
そうこうしている内に、試験時間が近づいたためか他の受験生が部屋に入ってきた。
すると、皆同様に俺を見ると固まり二度見する。それから席に座り、視線は俺に固定される。
――俺からすればなんとも言いがたい光景ではあるが、美少女達から視線を集めていると考えると全然悪く感じない。
…………むしろもっと見てほしい!
そう思った俺は彼女たちに向けて手を振る。
するとやはりというか皆顔を真っ赤にして俯いてしまった。
――やばいこれ。楽しい。
そう思って手を振っていると、試験管の声が聞こえてきた。
「ゴホン!――で、では!問題用紙を配布します!」
俺は試験管に注意を受けると思ったが、彼女も皆と同様に顔を赤らめていたため、
杞憂だったと考え直した。
「よし!頑張るか!」
――今、俺の2回目の高校受験が始まった。
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