第8話 とある受験生の一日
私の名前は小林(こばやし)佳子(けいこ)。
今日、私は秀英学園を受験します。
理由は勿論共学校だからです。
しかし親には、将来のことを考えて共学校よりも偏差値や進学率が高い女子校に行きなさいと言われました。
ですが私は、共学校に行きたかったため断固として拒否しました。
すると親は、共学校に行くのは認めてあげるから一番偏差値が高い秀英学園ならいいよと言ってきたのです。
――恐らく自分は共学校に行かせてもらえなかったから、私にも同じようにしているのでしょう。
端から共学校に行かせる気は無いのです。
――そもそも、私が行きたかった共学校は柏原学園でした。
勿論、出来れば秀英学園が良いと思っていましたが、私の成績では難しいとわかっていたからです。
なので私も、結局母さんの言う女子校に行くことになると思っていました。
――しかし。そう、しかしです。何処からかこんな噂が流れてきたのです。
――今年の秀英学園には男子が入学する――と。
そもそも秀英学園を諦めたのは何も成績だけが理由ではありませんでした。
――毎年男子0人の共学校。
秀英学園は女子学生からはこのように呼ばれているのです。
勿論事実なため学校も何も言えません。
しかし!今年は男子が入学するという噂を聞いた私は居ても立っても居られず、
噂の出所を独自のネットワークで探し出しました。すると、噂の出所は秀英学園の生徒だったのです。
私は直ぐさまその学生にアポイントを取り、そして話を聞きました。
――するとなんと、彼女が職員室に用事で訪れようとした際に、受験の対応をしている先生が、「御子息?!」 「だ、男子ですか?!」と叫んでいるを扉越しで聞いたらしいのです。
それを聞いた私は秀英学園に電話をして、受験のこと聞きながらさりげなく、
「今年男子の入学予定はありますか?」
と聞くと、先生は答えてはくれませんでしたが動揺したのを聞き逃しませんでした。
――恐らく個人情報だからか、それとも相手側に公表の許可を取っていないのでしょう。
――男子の許可無く公表して入学を取り消されたとしても学校側の責任になります。
勿論裁判になったら負けます。男子は国の宝ですからね。
しかし、それを聞いた私は男子が入学することを確信し、共学校に入るために猛勉強をしました。
それはもう人生で一番。
すると、なんとか過去問で平均230点を取ることが出来るようになりました。
そして私は有頂天になり、親にその事を報告し秀英学園の受験の許可をもらったのです。
「よしっ!絶対合格っ!!」
――私はそう気合いを入れて秀英学園へ向かいました。
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「すごい人ですね……」
私は受付に並ぶ受験生の行列を見ながらそう思いました。
しかし毎年の受験者の人数と大差無いのでその点は安心できました。
――男子が今年入学することが知られていたらこの倍では済まないでしょう。
特に、ここよりも唯一偏差値が高い女子校の冷泉学園の受験生に知られなくて良かったです。
あそこに行く人の殆どは、「男子がいない偏差値が二番目の共学校の秀英」よりも「女子校だけど偏差値が一番高い冷泉」という理由で選んでいるのです。
秀英に男子がいないから共学校と女子校でも何ら変わらないと考えているのです。
むしろ冷泉の方が偏差値が高いので、秀英ではなく冷泉を選んでいるのでしょう。
――まあ、ただ単に親に一番偏差値が良いところに行きなさいと言われているだけかもしれませんが。
つまり、秀英学園と冷泉学園は「男子を諦めきれない優秀な人」と「男子を諦めている優秀な人」という構図なのです。
受験が今年で本当に良かったです。来年は同情してしまうほど大変になるでしょう。
――まあ、私には関係がありませんが。
そんなことを考えながら行列に並ぶと、前の方がざわついているのに気付きました。
……何かあったんでしょうか? 目を凝らしてみると……そこには王子様がいました。
「…………」
――思わず息が止まってしまいました。顔が熱いです。
もしかして、これがあの一目惚れというものでしょうか。
「い、いや……そんな簡単に一目惚れするわけありません!」
――そう思い直しつつ彼を見つめていると、なんと目が合ってしまいました。
すると彼はこちらに気付いてか、微笑みながら手を振ってくれました。
「…………」
――この瞬間私は、彼に惚れてしまったことを理解しました。
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私はトイレへ向かっていました。
「はぁ……受験に集中しないといけないのに……」
トイレの入った私は、自分の顔が赤いことにため息をついていました。
――勿論、考えるのは彼のことです。
彼が受付の人に連れられていなくなったため、あの場での混乱は早々に収まりました。
――私と同じように惚れた人を量産して。
しかしその出来事の後空気は一変し、受験生が互いに警戒し始めたのです。
――その場にいた人理解してしまったのです。彼がここに入学するということを。
そうなると彼以外は全員敵に見えるでしょう。勿論私もそうでした。
しかし、そんなに気を張っていたら受験どころでは無くなると思った私は、
受付を何とか済ませると早々にトイレへと向かったという訳です。
しかしその間考えるのはやはり彼のことでした。
「ふぅ……落ち着こう……私……」
埒があかないと考えた私は出来るだけ落ち着き、トイレから出ました。
――するとそこには、女の子と会話をしている彼がいました。
私は嫉妬することも忘れて、なんとか会話を聞くために気配を消しました。
すると、なんと彼は迷子になって困っていた彼女を助けようとしていたのです。
――何という事でしょう。顔だけで無く性格も良いなんて……。
――私は短期間に二度も彼に惚れてしまいました。
しかし、我ながらいい人に惚れることができて良かったとも思いました。
――それからの事はあまり覚えていませんが、試験に関しては過去一番の出来だったとだけ報告します。
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