第13話 生徒会


――動画投稿サービスで音楽活動をしてみないか。


そう2人に提案をすると、2人とも「どういう事?」という顔をした。

まあ無理もないか。これは前世の知識がある前提での提案だし。

そう思ったので、理解してもらうために簡単に説明をする。


「えっと、簡単に言うとYoutubeみたいな動画配信サービスで、3人で作った曲のMVとかを投稿したり、生放送をしたりとかするってことかな。」


「……」


「……」


――俺の説明を聞いた二人は口をぽかんと開けていた。


「……えっと、えっ?曲?それは誰が作るの?……もしかして……私?」

莉子は期待半分不安半分で聞いてくる。


「うん。莉子には作曲・音声とかの音源系を担当してほしいと思ってる。」

俺が真剣にそう言うと、莉子は「楽しそうだけど難しそうだね……」と不安そうにした。



「……でも、私たちの曲がたくさんの人に聞いてもらえるかもしれないんだよね。……うん。そんなことが出来たら楽しそうだね!私は挑戦してみたい!」


そう言って莉子は、俺の提案に乗ってくれた。




「……えっと、私の担当は……?」


俺と莉子の話が終わった後に杏優が言った。


「杏優には、MVとか動画のイラストをお願いしたいと思ってる。MVは出来ればアニメーションで作りたいから、そのイラストとか動画のサムネイルとかをやってもらいたいな。」


「な、なるほどね。アニメーションかぁ……難しそうだね。……でも、自分の絵が動いたりするのは嬉しいし、何より3人で頑張って作るのもとっても楽しそう!私も挑戦してみたい!」


杏優も俺の提案に乗ってくれた。


「二人ともありがとう!」

こうして俺たち3人による音楽活動が始まろうとしていた。


「あれ?そういえば優成君は何の担当なの?」

莉子は俺が自分の担当を言っていないことに気づいて聞いてきた。


「言うの忘れてたよ。えっと、俺は作詞と歌かな。」


そう言うと、莉子だけでなく杏優も驚いていた。


「え?!優成君が歌うの?!私たちじゃなくて?!」


俺は莉子のそんな反応に思わず笑ってしまう。


「そうだよ。……あ。もしかして二人も歌いたかった?ならデュエットでもトリオでもいいよ!みんなで歌うのも楽しそうだしね!」


――それを聞いた杏優と莉子は「そうじゃなくて!! 男性の優成君が歌うってことに驚いたの!!」と同時にツッコんだ。


「冗談だよ!わかってるよ!でも、男の俺が歌ったほうが人気が出やすいでしょ?」


俺がそういうと、2人は「たしかに……。」と、言い返せないのであった。


「で、でも……」


「それに、うまくいけば収入があるかもしれないし、そしたらみんなで遊びに行こうよ!」


――その瞬間、全会一致で歌うのは俺に決まった。






#####################



「ここが生徒会室か。やっぱり大きいな。」


俺は目の前にある生徒会室を見て呟く。


今俺たち3人は、生徒会室の前にいた。理由は生徒会に用事があるからだ。

その用事とはもちろん、俺たち3人の同好会を作るための申請をするためだ。

大抵の高校や大学の場合、同好会の申請をしても活動費や部屋がもらえないから、しても意味がないと思うかもしれない。が、この学校は、生徒会に承認を得た同好会には活動費と部屋が与えられるのだ。

――もちろんこの生徒会による承認が難しいというわけだが。


聞いた話によると、同好会で何らかの実績を得られる可能性があると判断されれば、承認を得られるらしい。

それを聞いて俺は、初めは「たしかに実績を得られると判断してもらうには何か突出したものがないとダメなのだろう。」と諦めていたが、よくよく考えるとこの3人なら十分に承認を得られると思った。

俺たちの同好会は音楽活動。――つまり、その活動で人気を得られると判断されればいいのだ。

そして人気を得ることができる可能性は、これ以上ないほどにある。

また、俺たちは活動するのに必要な機材や部屋がない。


なので俺たちは、活動費と部屋を貰うために申請をすることにしたのだ。



「コンコン」



「はい。どうぞ。」



「失礼します。」


部屋に入る許可をもらったので俺たちは部屋に入った。

するとそこには、生徒会長を始めとする生徒会のメンバーがいた。 

彼女ら――と言っても3人だけ――は入ってきた俺たちを見て一瞬固まる。

――視線は完全に俺に向いているが。

そして直ぐに冷静さを取り戻すと、1人が俺に話しかけてきた。


「き、君は噂の新入生の倉部優成君だよね?」

そう言われた方を向くと、そこには少し顔が赤い女子生徒がいた。


「はい。そうですけど……えっと……」


「ああ!ごめんね!優成君が想像よりイケメンでびっくりしたよ!私は、生徒会副会長の市川(いちかわ)彩加(あやか)っていいます!よろしくね!彩加って呼んで!」


そう言って彩加先輩は俺に自己紹介をした。

すると――


「ちょっ!彩加!抜け駆けはずるいよ!えっと、優成君!私は生徒会会計の三咲(みさき)惠(めぐみ)っていいます!よろしくお願いします!私のことは恵って呼んで!」


恵先輩も俺に自己紹介をした。


「あ、はい。よろしくお願いします。俺のことは優成って呼んでください。」


そう挨拶を返すと、二人とも「ゆ、優成君!……うへへ」とにやけ始めた。



「ごめんなさい。優成君。彼女たちは後で叱っておくから。」


――そう言って生徒会長である明日香先輩が謝ってきた。


「いえいえ。大丈夫ですよ。賑やかで楽しそうなので羨ましいですよ!」


そう言うと明日香先輩は「彼女たちは仕事はできるんだけどね……」と呆れていた。


「えっと、そういえば生徒会は3人しかいないんですか?椅子が3つしかありませんが。」


部屋に入ったときに疑問に思ったので聞いてみた。


「ええ。現生徒会は私と彩加と恵の3人です。……もしかして生徒会に興味が??」


「い、いえ。特に他意はありません。」


「そうですか……残念です。でも、優成君なら生徒会にぜひ入ってもらいたいですね。初の男子生徒ですし、女性にも優しいとの噂なので。それに今年の主席で歴代最高得点を取るほど優秀なのですから。」


そう言って明日香先輩は期待した目で俺を見つめてくる。……やっぱり顔が少し赤くなっているが。


「そ、それは光栄です。」


俺はそう返事してはぐらかす。



「ゆ、優成君……?そろそろ話を……」


「はい。私たち居心地があまり良くなくて……」


杏優と莉子のその言葉で、俺はここに何のために来たのかを思い出した。


「ご、ごめん。話に夢中になってた。」


杏優と莉子にそう謝ってから、俺は明日香先輩たちに同好会のことを伝える。




「なるほど。音楽活動の同好会を承認してほしいと。どう思う?」


「いいんじゃない?男性が歌う歌なんて全然ないから人気出るよ!」


「そうだよ!しかもただの男性じゃなくて優成君だしね!」


先輩たちの意見はおおむね賛成のようだった。



「たしかに、優成君が歌うなら人気が出るだろう。だが、君たちの活動はこの学園の同好会ということになるから、自分たちのチャンネルに学校名などの個人情報を出す必要があるぞ。同好会は部活みたいなもので、あくまで学校の内での活動だからな。」


明日香先輩にそう言われたことで俺は気づいた。もし同好会として活動したら、所属学校の下での活動になるから、それでは所属を明記する必要があるだろう。部活だって大会の時とかは、所属学校の部活の活動として行ってるわけだし。それに学校の機材を使っているんだから、学校の実績となるように学校名を書く必要があるだろう。


しかし、もし学校名がばれれば俺はもちろん杏優や莉子の個人情報が流出する可能性がある。

特に杏優だ。彼女はSNSですでに人気イラストレーターなわけで、もし動画のイラストが杏優のイラストと似ていることに気づく人がいれば、学校名からすぐに個人情報が特定されるだろう。


「それは盲点だった……」


「た、たしかに……」


「は、はい……」



「でも、方法がないわけではない。」


――俺たちが落ち込んでいると、明日香先輩がそう言った。

そんなのあるのか?俺は考えてみたが見当もつかないかった。


「それは、優成君が生徒会に入ることだ。そして来年は次期生徒会長になることだ。」


「――え?」


俺が生徒会に?それも来年は生徒会長?

俺がそう混乱をしているのを察してか明日香先輩は説明をしてくれた。


「実は私の母はこの学園の理事長をしていてね。」


ああ、たしかに。入学式の時に同じ苗字なんだなと思った記憶がある。


「そして理事長というのは、学校の経営の運営をする人の役職。つまり、経営がまわりやすくなるようなことがあれば、大抵のことは承認してもらえる。つまりお金だ。」


なるほど。前世でも理事長と校長という役職があったが、理事長は経営で校長は運営ということか。


「そして優成君は学園初の男子生徒にして、顔もよく頭脳明晰ときている。ここでもし、優成君が生徒会や生徒会長を務めれば、学校の評価や人脈や報道機関からの取材、学園祭や受験生の増加などと数多くの利益があるだろう。」


「つまり、優成君が生徒会に入ることが学園からしたらプラスなわけだ。だからこそそれを利用すれば、学校の設備を借りたところで母は文句など言わないだろう。むしろ喜ぶ。だから、優成君が生徒会に入ってくれるなら承認は間違いなく得られると私は思った。優成君からしたら自分が利用されているようで不快だと思うが……。」


最後に明日香先輩は申し訳なく俺の顔を見る。


「いえ!むしろ理由を教えてくれて嬉しいです。それに、自分は男子なので利用されるのもしょうがないと思いましたし、むしろそれで不自由なく活動ができるなら自分を自分で利用すれば問題ないです!生徒会だって楽しそうなので、入りたくないとは思ってません。先輩たちと仲良く活動をする生徒会をやってみるのもいいと思います!」


そう言った後、俺はかっこつけすぎたかなと思ったが、みんなの俺を見る熱い視線を感じたので、失敗したわけではないと安心した。


「……優成君……モゴモゴ……カッコ……モゴモゴ」


「……儚い」


「尊……モゴモゴ……カッコ……モゴモゴ


みんなが俺を見て言葉になっていない声を上げているが、どうしたのだろうか?

俺はそんなことを考え、明日香先輩を見た。

すると、明日香先輩もなにやらモゴモゴ言っているが、俺の視線に気づいたようで冷静になった。


「えっと、明日香先輩。俺生徒会に入るので、3人での同好会を承認してもらっていいですか?」


「は、はい!もちろんです!」

明日香先輩は何故か敬語になりながらも同好会を承認してくれた。

俺は「これでやっと3人で音楽活動をすることができる!」と嬉しくなったので杏優と莉子を見ると、

丁度2人も俺を見ていたようで、俺たちは互いに喜び合いこれからの活動に胸を躍らせたのだった。








#################



「そういえば、俺が生徒会に入るのはわかったんですけど具体的に何をすればいいんですか?」


あの後、理事長からの予算・部屋を貰った俺は、杏優と莉子に先に帰ってもらい、生徒会に入ることになったが何をすればいいのか言われていないので生徒会の3人に質問をした。


「えっと、今は特にないかな。それよりも、一年間私たちがどういうことをするのかを覚えてほしい。」


「うん!確かにね。一年生の役員は来年に向けて仕事を覚えることを優先だよ!」


「そうだね!えっとね優成君、この学園はほかの学園と違って三年生は生徒会に入らないの。」


俺は彩加先輩に言われて納得した。そうだよな、普通に考えたら二年生が生徒会長をやるのはまだしもほかの役員も全員が二年生っておかしいもんな。


「理由はいろいろあるけど、一番大きいのは受験に集中してもらうためだと思う。だから、私たちも2月の終わりの生徒会選挙までは生徒会だけど、3月以降はもう生徒会役員じゃないんだよ。」


「そうそう!私たちも一年生の時に3人で、先輩の生徒会の仕事を覚えて3月からはもう新生徒会だったよ。

3月だから一年生!だから明日香は一年生で生徒会長をしてたよ!」


……だよな。やっぱり一年生で生徒会長になるよな……。明日香先輩凄いな。と思ったが、今までの生徒会長も全員通ってきた道なんだよな……。そして次は俺と。


「すみません。やっぱりできる気がしません!」


俺は思わずそう叫んでしまった。


「大丈夫だよ優成君!私の体験から言うと、仕事をきちんとしてくれる役員がそろっていれば何とかなるよ!

……でも、優成君の代だと男子の生徒会長ってこともあって色々仕事増えそうだから、かなり大変そうだけど。」


明日香先輩は慰めようとしてくれたのだろうが、余計にできる気がしなくなった。


「でも、俺優秀な役員の当てがありませんよ。誰が優秀なのかわからないですし。」


「ああ、それは大丈夫だよ!既に一人こっちで選んでるから!優秀な人!」


恵先輩はそう言って選んでいる生徒の情報を教えてくれた。


「えっと、彼女の名前は才野(さいの)蓮加(れんか)って言ってね、今年の新入生の次席。つまり優成君の次に優秀な人ってこと。しかも彼女も去年までの学園の入試最高得点の275点を超える280点で合格してるんだよ!

これはかなり優秀なんだからね?優成君が凄すぎて伝わりにくいけど。」


そう言って恵先輩は俺を呆れたような目で見てくる。

――たしかに自分でもこの体はチートだと思っています。……はい。


「な、なるほど。それは良かったです。……それでその才野さんとはいつ会えるんですか?」


「コンコン」


――俺がそう先輩に聞くと同時に、生徒会室の扉がノックされた。

まさか?!そう思った俺は先輩を見る。すると先輩は「今来たよ」と言って笑った。

なるほど。俺が生徒会に入ることになった時点で連絡していたのか。さすが仕事が早い。


「失礼します。」


そう言って入ってきたのは、高身長でモデルのようなスタイルをした美少女だった。

おそらく彼女が才野さんなのだろう。

雰囲気はどこか優秀さというか高貴さを感じる。

一目で「あ、この人絶対頭いい。」とわかる系の人だった。

そしてその彼女は俺を見ると、「あ、あなたが倉部優成さんですか……」と言って見つめてくる。

対して俺は美少女に見つめられたので、特に断ることもせずに見つめ返した。

そして二人が無言で見つめ合うという空間が出来上がったのだ。


「ごほん!」「ごほーん!ごほんー!」


それからどのくらい経っただろうか。先輩たちの咳払いによって俺たちは視線をそらした。


「ごほん!で、では優成君。こちら生徒会の一年生に選ばれている才野蓮加さんです!」


恵先輩がそういって俺に彼女を紹介してくれる。


「よ、よろしくね。才野さん!」


「蓮加と呼んでください。」


「あ、うん。よろしく蓮加さん!」


俺がそういうと、彼女は「やっぱり彼は私の将来の……モゴモゴ」などと呟いているが俺は気づいていなかった。


「では、才野さん!こちら知っているとは思いますが、生徒会の一年生に選ばれた倉部優成君です!」


「はい。知っています。よろしくお願いします。優成君。」


「うん!よろしく!」


……ってあれ?最初から名前呼び?……まあ、感性は人それぞれか。

俺はそう思うことにした。



「じゃあ、お互い紹介が済んだところで、これからの活動について説明をしようと思う。」

明日香先輩はそう言って説明を始める。


「まず、直近の学校行事は6月ごろにある高校総体だ。これは同じ地区の学園の部活同士が試合をして、勝てば全国区まで行ける大会だ。しかし、生徒会は夏休み前にある文化祭までは特に仕事はないのでそれまでは通常業務をする。」


「一年生の二人は、週に一度ほどでいいので生徒会に参加をして通常業務のやり方などを覚えてほしい。」


「以上だが、何か質問がある人?」


俺はその問いに手を挙げる。


「えっと、一年生は現状二人だけなんですけど追加の役員はいないんですか?」


そう俺が聞いた瞬間、蓮加の雰囲気が不穏なものに変化した気がした。

……え?何?俺なんかやっちゃった?


「いや、いま探しているところだが、なかなか見つからない。」


「そ、そうですか。わかりました。ありがとうございます。」



「ほかに何か質問のある人?」


そう明日香先輩が続けて言うと、蓮加が手を挙げた。


「もし生徒会の業務を滞りなく行えるなら、役員は二人だけでもいいんですか?」


蓮加はそう心なしか真剣な表情をして質問をした。


「あ、ああ。そうだぞ。別に人数の規定はない。」


「そうですか。わかりました。ありがとうございます。」


そして蓮加はそれを聞いて嬉しそうにお礼を言った。

……え?もしかして俺と二人っきりがいいの?

いや、そんなわけないか。蓮加は真面目そうだしな。

俺はそう思ったので何も聞かなかった。


「ほかに質問はないか?」


「では、これで生徒会の顔合わせを終わりにする。ご苦労様。」




――こうして生徒会の初顔合わせが終了した。






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