第3話 関係(物語の基本設定)
うちの幼稚園は、基本的にお出迎えということは、まずしない。なにせ近所の子たちがほとんどだから、送迎もないし、親もいちいち付いて歩くこともない。
なので、園に入るときは、たいてい園児だけで来ることがほとんどだ。
なので、親が一緒に来るというのは、園児が様子が悪いとか(そんな時は休ませればいいのに)、よほど伝えたいことがあったか(今はメールでも可能なのに)、くらいしかない。
そんな様子など、俺には本当に初めてで判らなくて、3月4月の入園のときからしばらく一緒について行っていたのだ。
そうして園児のほうが先に馴染んで、親が来ることが、かえって浮いて見える。しかしそれは俺には感じられず、先生からコソッと伝えられて、『そういうものなのか』と感じたものだった。
「お子さんが心配なんですね。」
と言ってくれたのが、あの渡辺先生だったのだ。
その時の、クスクスって感じで、でも厭味ったらしくなく明るくケラケラした感じの顔だったのが、すごいふわっとさせてくれた、というのかな。あ、男の先生だぞ。フツーの。
そこから、担任じゃないけど渡辺先生に、何かあるごとに駆けつけたり話するようになったり、そしてメールアドレスもゲットできたり。
まあ、我ながら、子供を持つ親の気持ちって、こういう時に感じたり、…あ、違う?そうじゃない?
ま、まぁ、なんつーか、渡辺先生のことを信頼できるようになったんだな。
そうして5月になって、親御さんの懇親会というのがあるので、会社に休みを届けて、父さん母さんに亮を預けて(俺には見たこともない種類の笑顔を見せていたけど)、
先生方と園児の親たちと、顔合わせをしたんだが。
ま、男親はいないだろうと思っていたが、俺の他に3人いた。これも時代なのかとちょっと思ったけどな。
先生方の自己紹介をして、保育園の趣旨説明をして、そのあと園児の保護者の自己紹介をして。そのあとは、簡単な立食パーティーを用意してくれていた。
園児たちの手作りの飾り付け(後で聞いたら、先輩の園児たちが作ったものだそうだ)が施されていた。机をいくつかの島にかためて、お菓子とジュースが用意されていた。
ここで、改めて渡辺先生と話すことができたんだが、
「あ、俺、B大学卒業なんですよね」
「え、そうなんですか。僕もB大学ですよ」
という一言から、学部こそ違うが先輩後輩の間柄だということが判明し、さらに親近感が湧き出したのだ。
「あら、先生、B大学なんですね。関東七大学だなんて、優秀じゃないですか〜」
なんて持ち上げた奥さんがいたもんだから、先生と、俺も巻き添えて、注目されてしまった。
ちなみにその後。夏前の別の催しの時に、晩御飯を食べましょうという会があり、親睦会パート2が開かれた。今度は焼き肉にアルコールも出されてきた。そのため参加者みんな、盛り上がった。その時の会話だ。
「あの、先輩の学部って、なんですか?」
と、渡辺先生から話してきたのだ。B大学については、あまり詳しいことは言ってないんだけど、今日はお酒も入ってるし、ここは正直に話すことにするかな。
「スポーツ学部の推薦だったんだよ。だから、大学入試ってやらないで入れたんだ。頭悪い俺でもB大学卒業って胸張ってるけど、今ってそこ残ってるのかな?もう規模縮小したって聞いたんだけどな。だから今じゃ幻の学部なんだよ。あまり他には言ってないけどな。」
はははっと笑った。先生もつられて笑った。
「んで、先生はどうなの?あの大学に、教育学部って無かったよな?」
今度は俺が逆質問してみる。幼稚園って、小学校とか中学校みたいに、教員免許がなければ先生にはなれない。俺がそれを知ったのは先月だったけど。すると先生も正直なところを。
「実は、経営学部の卒業で、市役所勤務だったんです。経理部に配属した時に、幼稚園保育園の経営状況の担当になったんですけど、ここの経営状態が芳しく無くて、市役所からの派遣で来てるんですよね。ぶっちゃけ、内部監査、みたいなものです。だけど、ウチみたいな田舎の市役所だと、先生たちも人手が足りないもんだから、僕も先生としてしょっちゅう駆り出されてます。」
ほーう、そういうからくりだったのか。というタイミングでパシャッとフラッシュが。
「先生方の写真、あとで送っときますよ。メルアドとかありますか?」
渡辺先生は、若くて甘いマスクだから、奥様方のアイドルなのだ。こういうタイミングを狙って、個人情報を獲得しようとする狩人が跡を絶たない。それで、いつのまにか俺がすぐ近くにいてボディーガード役に、なってしまっている。
「あ、じゃ、俺にくれますか?そのあと先生に送っときますよ。」
「あら。また先生の秘書ですかぁ〜?ま、佐々木さんもワイルドだから好きだし、いいですよ。ぅふ。」
俺は苦笑いしながら、そのさっきの写真を送ってもらった。飲みの途中で、グラスは写っていなかったが、俺と渡辺先生が見つめてる画になっている。アルコールが入ってるから、顔も少し赤くなってるし、よくよく見て変な判断されたらどうしようかと、シラフだったら思ったかもしれないが、
「おっ、なんか意味深な写真にも見えますね(笑)」
と、飲んでる勢いで、ぱぱっと送ったのだった。
先生もメールを受け取って画像を見た時は、
「あー、これは、勘違いされる案件ですね〜」
なんて、ぷぷっと笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます