彼女に楽しい夢を、貴方に優しい音色を、交わる人とあやかしの恋時雨。
- ★★★ Excellent!!!
カクヨムコン7に飛来した今作は人とあやかし達が奏でるハートフルストーリー。
Twitterの予告から興味を惹かれた私、その直観は正しく「依月さかな」さんの世界観に飲み込まれました。
主人公「三重野紫苑」は普通の人とは少し違いあやかしが見える少女。しかし過去のとある事件の影響であやかしを恐れ、大好きだったピアノからも距離を取って日常を送っていた。
そんな折、弱って倒れていた子猫を拾い家に連れ帰った……しかし。
実は子猫の正体は夢喰いあやかしの『獏』、真っ白な髪に三角耳が特徴のとびっきりのイケメン、しかも紫苑ちゃんが目を覚ましたベッドの上に覆いかぶさっている!?
「お前、おれの女になれ」
予測不能な告白、そこから少女の時間は動き出した。ドキドキする獏との出会いを経て紫苑ちゃんは過去のトラウマと改めて向き合う。
懐かしい風を感じる田舎町を舞台に登場する個性豊かな登場人物たち。
幼馴染であやかし専門の薬屋を営む雪火くん、彼の傍で飄々と笑う九尾さん、さらには突然やって来た謎の転校生。
ときに笑い、ときのほのぼの、更にはあやかしを狙う退魔師との戦いも勃発!
目まぐるしく訪れる非日常、町の影で目を光らせる因縁の影。
あやかしを恐れながらもそれでも助けたい力になりたいと、勇気を振り絞る紫苑ちゃんの優しさには心から応戦したいと思える魅力があります。
そして彼女は獏に『アルバ』と新しい名を与え彼との絆を深めていく。
ぶっきらぼうながら、誰よりも少女を大切に想うアルバ君。彼が言った「お前、おれの女になれ」発言の真意とは? そして紫苑ちゃんは大好きだったピアノを再び弾けるのか?
読んでいるこちらも心が癒される少女とあやかしの優しい青春。ハラハラするシリアス展開もあり物語に良いアクセントを加えます。
草木の香り、鈴虫の声、蛍の淡い光。まるで御伽噺の一節を連想させる日常と非日常の混ざり合い楽しめる素敵な作品。じんわりと心を温めてくれる甘酸っぱい恋愛譚、是非とも一度読んでみてください。
作者が力を入れた郷土料理のシーンには注目です、和気藹々と進む食事に笑顔になること間違いなしです。