第8話 デートで……
次の日は、一応念のために会社を休んだが、その翌日出勤するといつもより私の周りが騒がしい。今までだったら私は可も不可もない平凡な女子社員だったはずなのに、他の部署の人達からも声を掛けられる様になっていた。
もしかしたら、ここは私の知っている世界ではなくてパラレルワールドなのかも?等と現実逃避をしたものの、結局現実を知る事になったのは、自分の貯金通帳の残高を知った時だった。
はあ~~~。あんなに頑張って節約したのに───っ!!
誰に向けてこの怒りをぶつければいいのか分からないまま、時間は過ぎていった。でも、私の身体を使っていた人間は解った。
それはヴァイオレット・ブロッサムだ!
証拠もある。彼女があちらの世界で書きかけにしていた魔法陣が部屋の寝室にもあったのだ。ちょっと困るんだけど、何で書いたか知らないけれど、拭いても消えなかった……。賃貸なのに……。撤去する時の修繕費に上乗せされそうで正直怖い──
しっかり現実を噛みしめていると、
「なあ、次の休みに行きたがっていた水族館に行こうぜ」
「う…うん」
正直、水族館になんて私はあまり興味がない。どちらかというなら魚より動物の方が好きだ。あのモフモフに癒されたい。きっとこれもヴァイオレットの希望なのだろう。なんだかなあ──、この男の目には私はどう映っているのだろう?偽物なのか本物なのか。彼はヴァイオレットと菫のどちらを好きなんだろう。多分、前者なんだろうな。そんな事を考えていたらちょっとショックを受けている自分に気付いた。
まあ、私も人の事は言えない。出会い頭にブルーノアと致した訳だし、お互い様、痛み分けって事でってところかな……。でも今、向こうの世界ってどうなっているんだろう。上手くやっているといいなあ。と他人事の様に考えていた自分が馬鹿だった。
「なあ、菫。イルカのショーがあるんだって、見に行こうぜ!」
もうお互い30前だと言うのに子供の様にはしゃいでいる松坂悠希を見ていると、可愛いと思ってしまう自分もいる。そんな彼とは対照的に私は素直に喜びを表現できないし、いい年をして恥ずかしいって気持ちの方が勝っていた。
そして、水を被ると言うのに最前列の席で鑑賞したのが悪かった。私が失くしたスマホの代わりにヴァイオレットが新しく買い直したスマホからまたあの曲が流れてきた。イルカが勢いよく水をかけてきて肌に冷たさを感じた瞬間、又こちらの世界にお邪魔した。
入れ替わったヴァイオレットは行きたかった水族館に行けて満足だろうが、私は今まさに目の前の男に捕食されかかっている。
絶対ピンチの状態!!
なんで、あのタイミングで入れ替わるんだ?入れ替わる条件は一体何?
頭の中の疑問符は、目の前の全裸の男に唇を奪われて消えていった。
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