第5話 悪役令嬢の日記
私は引き出しの中の日記を見つけた。
もしかしたら、ここにヴァイオレットの私生活が書かれているかもしれない。
そう思ったら人の日記だけれど読んで、これからの事を考えようとページを捲った。
しかし、そこに書かれていた内容は、小説やゲームとは全く違うヴァイオレットと婚約者である王子との関係だった。
婚約者である第二王子は、ヴァイオレットに付きまとっているストーカー体質のヤンデレ。
常に用もないのにヴァイオレットを自室に連れ込もうと画策し、気持ちの悪い手紙を送りつけてきたり、つい最近はヴァイオレットの下着を手に入れようとしたらしい。
流石に我慢の限界が来た時に、例のヒロインが登場して彼女に王子を押し付ける為、あの手この手で二人が結びつく様に裏工作をしていた。
その生々しい計画の内容が日記にはありありと綴られている。
私がヴァイオレットでも嫌かも。怖い……
そして、私にとって衝撃だったのは、王子の執念深さだった。学園卒業パーティーで断罪を受けているはずのヴァイオレットは、断罪されていないのだ。
どうやら王子はまだヴァイオレットに未練があり、ヒロインを愛人にヴァイオレットを正妻にするつもりのようだ。
なら、ブルーノアを雇ったのは誰なのか?
ヴァイオレットが残した魔法陣は、何に使おうとしたのか?
謎が増えるばかりだった。
当面の問題は一週間後に起きる夜会を何とかやり過ごさなければならない。
婚約の方は、何とか解消されたようだが、この日記から想像すると、王子と二人になると最悪王宮に監禁される恐れもあるだろう。
「もう、ブルーノアは一体何をしているのかしら。彼との関係を早く発表しなければ……」
私は内心一人で焦りながら、他にも何かヴァイオレットの事が解るものがないか部屋中を物色し始めた。
迫りくる夜会に備えて、ヴァイオレットを演じるしかないのだ。
頭を抱えながら、椅子に大の字になって手足を投げ出している。
こんな姿を見たら、大騒ぎになるだろう。とてもヴァイオレット・ブロッサムの姿ではない。菫丸出しなのだから。
机の上にうつ伏せになっていると、音楽が聴こえてきた。
どうして、#あの曲__・・・__#が鳴っているの?
聞こえるはずのないゲームのメインテーマソング。
私がこちらの世界に来るきっかけとなった曲が聴こえてくる。
耳を澄ませながら、部屋中を探し回ると、ベッドに下にあったスマホから鳴っていた。
スマホの画面は真っ黒なのに曲だけは聴こえている。通話の表示が見えて、私は何かに導かれる様に表示を指でタッチした。
慌ててスマホを取ったせいで、ベッド脇にあるテーブルに足が当たってしまった。その上には水差しが残っていた様で、私はその水を被るのと同時に、スマホが繋がった。
「もしもし…」
私の声だけが聴こえてくる。
どういう事なのだろう?
怖くなった私がスマホを落とすと画面に映ったのは、私がいた世界だった。
思わず手を伸ばし、画面に触れた瞬間、私は吸い込まれる様に意識を手放した。
次に目が覚めた時、白い天井が見えて
「ああ、目が覚めたんですね。良かった。今、先生を呼んで来ます」
そう言って看護師が病室から出て行った。
一体、どうなっているの?あれは夢だったのだろうか?それにしてはやけにリアルだったような気がする。
元の世界の元の#身体__菫__#に戻れてホッとしている。
だが、本当にここは私の知っている現実なのだろうか。
どうしようもない不安を抱えながら、医師が来るまでただ白い天井を見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます