第4話 乙女ゲームの世界観
私は、暗殺されて直ぐに入れ替わったので、令嬢としての知識はなかった。あるのは小説・漫画・ゲームの内容に付属する部分だけの偏った知識。
よくある転生ものだとその人物の過去の記憶があるのだが、この器にはそれがなかった。だが幸いな事に言語だけは理解できるし、本も日本語で読める。
せめて、生まれた時からこの姿なら良かったのに、成人して、しかもゲーム終了からの入れ替わりなんて既に詰んでいる。
これは一体どんな罰ゲーム何だよ。
愚痴っても仕方がないのだが、遂愚痴ってしまう。それに入れ替わったのなら、本物のヴァイオレットはどうなったのだろう。私の体に入ったのだろうか?それともあの時亡くなったのだろうか?
分からないが、人生で一度きりの初体験をうろ覚えでしか覚えていない事が何だか残念な気持ちにさせられた。
もっとあの肉体を堪能しとけば良かった。
27年も彼氏いない歴の私としては、初体験を別世界で体験できた事だけが唯一のご褒美だったに違いない。しかも一応、上手くいけば結婚もできる。
でも何事にもフラグは立つもので、これで目出度し目出度しとはならないのである。
小説ではブルーノアは完全な脇役で、彼のルートはゲームの中で作られた。彼の生い立ちは原作者から許可を得てうちの会社で作りあげた物だ。
だから完全ではないがオリジナルでもある。そこに私というイレギュラーが起きたのだ。何かが起きても不思議はない。
数日は、ヴァイオレットの部屋で本を読み漁って、知識を詰め込んでいた。元々は彼女の体なので、基礎はできている。新しい知識以外は、なんとなく知っていると感じることが出来た。
でも、実際のマナーとなるとこれが中々に難しい。本来の体ではないから思う様に動かせない。
これは難問だわ。
この世界は中世のヨーロッパを手本の様にした世界。だから、マナーもそれに似てはいるが、細かくは小説にもゲームにも描かれていない。
だから、ダンスといっても自分の意志で体を動かさなかればならない。まず、やった事が無いからイメージが湧かない。
会話の方は、本や貴族名鑑を覚えれば何とかやっていけるが所作は難しい。付け焼刃でどうにかできそうにない。
それに、疑問もある。何故、ヴァイオレットは入れ替わりを望んだんだろう。そんな話は小説にも出ていなかった。
彼女はヒロインを呪って、暗殺され、王子とヒロインの障害が無くなった所で終わっている。ヒロインは聖女という設定となっていたが、結婚したという終わりではなかった。続編が出るという話は聞いたことがあるが、まだ書かれていない。
そもそも聖女って、処女性を問う物じゃないの?
なんで、あんなに男を誑し込んでいくのだろう?
どの作品を見てもそんな疑問しか湧かなかった。
日本の巫女は処女を失ったら力も無くなるし、外国の映画にもそんなものが数多くある。なのにゲームの中や小説の世界での聖女は違っている。
そして、何で純粋な聖女が男を次々の籠絡していくのかもわからない。
純粋なら男じゃなくて女にも受けがいいのではと思ってしまうのは、私の性格が悪いから?
もしかしたら、私のいる世界は原作者の続編の中なのだろうか?
どちらにしても、確かめる術は私にはない事だけは確定している。
仕方がないので、私は黙々と等身大の呪いの藁人形相手にダンスの練習をしている。
彼女の部屋になんでこんなものがあるのか理解に苦しむが、嫌な予感しかしないので、そこはスルーしたい。
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