第3話 新たな一歩

 侍女に身支度を手伝ってもらった私は、重いドレスを引き摺りながら、階段を降りて行った。


 公爵の執務室には先に身支度を整えたブルーノアが座っていた。


 「かけなさい。ヴァイオレット。どういう事か説明してもらうぞ」


 「は…はあ…。どういう事かと言われましても……」


 「公爵閣下、第二王子殿下との婚約を破棄された令嬢に横恋慕していた私が、昨夜想いを遂げた次第です。どうか令嬢との婚姻を認めて下さい」


 横恋慕も何もないでしょう。昨夜、その王子の依頼で暗殺しようとした癖に……。


 私は彼の好意に心の中で水を差しつつ、その話に乗るしかない事も理解していた。


 体の中身が違う事をいつ気付かれるか分からない緊張感で、冷や汗が止まらないし、下半身が異常に痛い。


 初体験の後は、痛いとは聞いていたが、何だかまだ何かが挿入っているような感覚もあった。


 段々、顔色も悪くなっていく私を隣に座っている彼だけが気付いたようだ。


 「取り敢えず、令嬢を休ませて下さい。昨日は夢中になってしまい手加減が出来なかった。かなり無理をさせてしまったようですので」


 その言葉を聞いていた侍女と公爵夫人は真っ赤になり、公爵は咳払いをして


 「わかった。こうなった以上、早めに挙式を上げる事にする。それでいいな」


 「は……い」


 私に否を言える筈もなく、見送りの時に


 「昨日は中々良かったよ。俺達は相性がいいらしい」


 とぼそりと告げた言葉に顔が火照っているのがわかる程だった。この男は結構いい性格をしている。


 でも、王子からの暗殺依頼を受けたのに、結果失敗なんて大丈夫なのだろうか?


 まだ、体が馴染まない私はボーッとしつつ、こんなおかしな心配をしていた。


 侍女に支えられながら、ヴァイオレットの部屋に戻って行った。


 その数日は、ボロが出ない様に出来るだけ、部屋から出ない様に心掛けていた。


 屋敷の者は、


 ──失恋して、新しい急な出会いに戸惑っている奥ゆかしいお嬢様


 等と勝手に妄想を膨らませていた。


 本当に奥ゆかしい令嬢は、出会って直ぐの男と朝チュンなんてしないでしょう。


 単に、貴族のマナーなんて解らないから、引き籠っているだけなのだが。


 勝手に良いように誤解されていく。


 これが乙女ゲームの中だからなのか。


 しかし、あの公爵の迅速な対応には驚かされたなあ。


 その日の内に、婚約の手続きを済ませ、結婚の段取りをつけて来た。それも仕方がない、王子と婚約を破棄された令嬢の嫁ぎ先など何処にもないのだから。


 それに、体の相性がいいらしいので、ブルーノアも結構乗り気なのだから、この際彼に甘えよう。


 元いた世界に戻れる方法があるのなら、この家より事情を知っている彼の家の方が断然いいに決まっている。


 兎に角、私は一刻も早く彼の元に行きたかった。

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