ヒトと妖魔の関係はどこに向かうのか?

黒蜥蜴のような容貌の妖魔・漆葉境は、人間に擬態して大学生活を送っていましたが、留年の危機に直面します(!?)
漆葉は両親から、留年回避のために政府の妖魔対策組織に潜入することを打診されます。
妖魔の天敵である土地神・白神夕緋が持つ日本刀『桜の命』を奪取するために。
しかし、立て続けに不可思議なことが起きます。

妖魔・漆葉の外見にそっくりな黒蜥蜴の出現。
捨てられているゴミを見ると強制的に人間の擬態が解けてしまう現象。
極めつけは、妖魔であるはずの漆葉に、土地神の力が使えたこと……。

漆葉は妖魔であることを隠しつつ、夕緋の従者となって、共に偽・黒蜥蜴の正体を追います。
その過程で漆葉は、前代の土地神であり、夕緋の姉であった朝緋と交流していた過去を思い出すようになります。

本来は相容れない妖魔である漆葉が、何故、人間社会に飛び込んだのか?
その理由が、朝緋との過去にあります。

亡くなった朝緋との思い出。
当代の土地神・夕緋との関係。
偽・黒蜥蜴の正体とその想い。

本作のストーリーは基本的に、『ヒト対妖魔』の対立を描いていますが、漆葉は妖魔でありながらもヒトを守るために力を振るいます。
だからこそ、彼はヒトと妖魔の境界に立ち、どちらの視点からもこの社会を見ることができます。

ヒトは社会と生命を尊重して、それらを守るために組織的に妖魔を退治します。
妖魔はヒトを襲い、喰らい、しかし、その在り方は絶対悪なのか疑問が呈されます。また、妖魔の中にも仲間を想える個体が存在します。

ストーリーの中で綴られるのは、ヒトと妖魔の立場と生き方であり、それぞれに関わり合いを持つ漆葉がキーとなっていきます。
果たして、ヒトと妖魔は本当に分かり合えないのか?
漆葉が朝緋から託された想いの正体とは?

……と、ここまでシリアスな部分にのみ触れてきましたが、本作はキャラの明るく楽しい掛け合いもまた魅力のひとつです。
漆葉は割となんでもズバズバと物を言うため、それが逆に面白さを生み、負けじとヒロインである夕緋や桧室も漆葉を引っ張り回します。
各キャラクターがのびのびと自分の個性を披露し、埋もれているキャラがいない印象です。

個人的に好きなのは、chapter 2 から登場するヒロイン・桧室涼香です。
クールで冷たいところもありますが、辛い食べ物に目がないというギャップも持ち合わせ、なんだかんだと漆葉や夕緋と仲良くやっている。
お父さんと仲が良いところも好感が持てます。

他には、統括土地神・篠宮仙も良い味を出していて、chapter 3 のクライマックスは手に汗握りました!
その後の、漆葉との関係性も良きです。

ヒトと妖魔という異なる種族の関係を描いた本作は、chapter が進むごとに、その関係が複雑になっていきます。
異なる種族間の共存・争いをテーマに、編み込まれる人間&妖魔の関係は、時に敵対、時に友好、時に双方が混ざり合います。
どこか民族問題を想起させるテーマは、ただのフィクションとしての味わい以上に、リアリティがあります。

果たして、ヒトと妖魔の関係はどこに行き着くのか。
漆葉がヒトと関わり合い、関係を築いていく中で、探し求める答えは見つけられるのか。
非常に奥深い、ヒトと妖魔の関係を書いた一作です。

最後に一言、『面白い』!

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