第165話  分裂②

マルメディア ニアルカス 教皇庁 とある一室



「…国務省長官が心中とか、聖教会始まって以来、最大の醜聞スキャンダルだ」


「しかも心中の相手が未成年の男娼とか、最悪としか言えない」


「首席枢機卿が同性愛者だとか、誰か噂で聞いた事はあったのか?」


「……」


「だろうな。本人としては、一番隠しておきたい秘密だが、そんな素振りも見せていなかったというのは、何とも…」


「…今回の事件、解せない事が多い」


「聞こうか」


「まず、秘密にしておきたい筈の男娼を買う行為を、聖教会お膝元のニアルカスで行っている事」


「それは確かに不自然だな」


「宿泊者名簿に本名を記入している。これも不自然だ」


「世間に知られて困る行為を行なっているなら、偽名を記入する筈だな。わざわざ本名を記入するか?」


「…首席枢機卿は左ききだった。だが、左手ではなく右手に短刀ナイフを持って喉を掻き切っている、と警察の検屍報告書にある」


「…心中いや、自殺ではなく、何者かに殺害されたという事か」


「では、殺害の目的は何なのか」


「…ウィトゲンシュタインの後任の首席枢機卿を決めなければならない。この時に、一悶着起こすつもりなのだろう」


「ありそうな話だな」


「今、教皇庁は事件の対応に追われていて、次に何が起こるか、何を為すべきか、まで考慮出来ない状態だ。混乱している内に、前教皇派の首席枢機卿を据えるつもりなのだろう。それはかなり拙い」


「…アルミニウス6世は権力ばかり追い求めて、自分と自身の取り巻きの事しか考えていない。聖教会にとって、かなり危険な人物だ」


「…諸卿は『フェリクス団』の話は聞いた事はあるだろうか?」


「司教省信仰弘布会管轄下だった、あの部署か?あれは既に廃止されている筈だ。今では伝説となっているが…」


「異端審問を名目に、脅迫、拷問、暗殺を行なってきた、聖教会の闇の存在だ。表向きは廃止された事にはなっているが、もし現在でも存続していると考えると…」


「フェリクス団は司教省の下部組織だったが、実際は教皇直属の機関だった。…すると」


「ああ。今回の件は、アルミニウス6世が命じてフェリクス団が実行した。そうは考えられないだろか?」


「まさか!教皇が政敵排除目的で暗殺を命じるか?」


「あの御仁なら、十二分にあり得る話だ」


「いや、それはおかしな話だ。教皇庁直属なら、何故、クレメンス10世にフェリクス団がその存在を明らかにしないのだ?」


「仮にフェリクス団が存在しているのであれば、教皇併立で、どちらの側に就くのか、決めかねているのではないだろうか?」


「決めかねているのであれば、アルミニウス6世の命令で首席枢機卿を殺害するのも、妙な話だ」


「…フェリクス団ではなく、外部の暗殺者の仕業ではないのか?」


「教皇庁内部でも外部でも、それは関係ない。問題は、次の首席枢機卿を誰にするか、だ」


「前教皇派の巻き返しがあるとすると、聖教会の改革は、ここで終了となる」


「あってはならない事態だ」


「それでは聖教会の未来が閉ざされてしまう」


「首席枢機卿選出は、国務省評議会で行われる。出席有資格者に働きかけて、前教皇派が擁立する枢機卿を選ばないようにしなくては…」


「そうだな。一同、為すべき事を為して、国務省評議会に備えようではないか」


その言葉を聞いた青色の枢機卿聖職者服を纏った者達が、一斉に部屋を去って行った。





マルメディア 首都ノイスブルク 王宮 小会議室


「いやはや、とんでもない事件が起こったものだ」


———同性愛、しかも相手が未成年、殺人、自殺。聖教会としては、あってはならない事件だな———


「教皇庁は、この件の対応で混乱しています。しばらくはレヴィニア支援どころではないでしょう」


外務省第五局(マルメディア情報部)局長フォン・ヴァイゼンが、そのように説明した。


「…今回の事件には、第五局は関与しているのかね?」


宰相レーマンが尋ねた。


「いいえ。我々第五局の関与はありません。ですが、警察の発表を鑑みますと、色々と不自然な点が散見されます」


「不自然?」


「その点につきましては、追って報告書を提出いたしますが、我々は首席枢機卿ウィトゲンシュタインは何者かにより殺害され、心中を偽装されたと睨んでおります」


「…この場合、最大利益受理者が犯人或いは教唆した可能性が高い」


そう言った外相ツー・シェーンハウゼンの言葉を引き継いで


「それは前教皇アルミニウス6世ではないのか?」


と法相アインホルンが言った。


「まず間違いないところです。殺害されたと仮定しますと、実行犯は何者か、という点が問題になります。こちらに関しては、現時点では推定でしかありませんが、教皇庁内部の組織絡みではないかと推察されます」


ううむ…教皇庁内部には.、そんな暗殺集団がいるのか!


「過去に、暗殺、誘拐、拷問、脅迫を業務とする、教皇庁司教省信仰弘布会…まぁ名前はともかく、異端審問の専門部署がありました。とうの昔に廃止した、と教皇庁は言っておりますが、この組織が現在でも存続しているとしたら、由々しき事態となります」


「それはつまり…」


宰相の言葉を遮って、フォン・ヴァイゼンが私見を述べた。


「聖教会と対立して破門された陛下の暗殺を企てかねません」



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時代背景を鑑みて、同性愛は許されない行為である、という世界観になっております。


どうか御了承ください。







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召喚されたら斜陽の国の国王になってました @silverstate

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