第164話 分裂①
マルメディア ニアルカス オテル・ド・プルミエ
「部屋の扉を叩いても、応答が無いのです。勿論、部屋に備えつけてある電話での連絡も試みましたが、こちらも電話に出ることはありませんでした」
受付係のハーマンが答えた。
「いかんな。事件か事故か、ともかく、そのお客様の部屋に向かうとしよう」
リーバーマンは警備担当者とハーマンを連れて、退館してない客が宿泊している部屋へと向かった。
問題の1105室前に到着したリーバーマンは、扉をま4回叩いてから声をかけた。
「お客様、当館の支配人です。退館時間が過ぎております」
室内からの応答は無かった。
「…参ったな、これは」
再度、扉を4回叩いてから声をかける。
「お客様、支配人です。お返事が無ければ、室内に入らせて頂きますが、大丈夫ですか?」
やはり応答は無かった。
「…仕方ない。合鍵を使って部屋へ入るか。君達、部屋から応答が無かった事は、証言してくれるな?」
支配人からの問いかけに無言で首肯する、警備員と
「はい」
と応じた、受付係のハーマン。
「では、入室するとしよう」
合鍵を使用して錠を解き、扉を開けて中へ入る3人。
「お客様、当館の支配人です。いらっしゃ…なっ!」「うわっ!」「ひっ、これは!」
寝台(ベッド)の上に血塗れで全裸の男が横たわっていた。
「けっ警察に連絡だ。とりあえずは、この部屋から出よう」
支配人がそう言うと、慌てて一行は部屋から出て行った。
◆
「この部屋には、もう一体の遺体がありました」
ニアルカス警察の捜査担当責任者ファスベンダーが言った。
「もう一体?宿泊者名簿には、このヘルマン・ウィトゲンシュタイン様お一人での
支配人のリーバーマンは、そう返した。
「ふむ、外部から第二の犠牲者を呼んだ、という事ですな。遺体には、顔が見えないように毛布が被せてありました」
「それは、どのような意味なのでしょうか?」
「親しい人を殺害した場合によく見られる行為です」
「それは、つまり…」
「心中の可能性が極めて高い、と我々は見ています」
「心中、ですか」
「両者とも全裸で発見されてますし、まぁ、痴情のもつれが引き金となったのでしょう」
そこまでファスベンダーが説明された時に、別の捜査官が部屋へ入ってきて
「警部、このウィトゲンシュタインですが、教皇庁の枢機卿です」
とファスベンダーへ耳打ちしてきた。
「…捜査には慎重を期さないと、拙いことになるな。とりあえず、現場検証をしっかりとやろう」
やれやれ、これは厄介な事件になりそう…いや、なっているな。
ファスベンダーは腹の中で舌打ちしながら、そう思った。
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