第13話
「というわけなんだけど、お願いできる?」
『任された!』
少し引っ掛かるところがあったので、恐らくノーマークであろう委員長に調査を依頼することにした。
数日後、分かったことがあると委員長に呼び出された。
「何かあったの?」
鶫には知らせないつもりだったんだけれど、委員長が勝手に呼んでいた。
「いやあ凄いことが分かってね。これはびっくりだよ」
委員長はカバンから何やらファイルを取り出した。中には写真が入っているようだ。
「これこれ」
見せてきたのは椿さんが黒服の男と話している写真。
「SP?」
綺羅女に通ったりホテルを運営したりする位金持ちなんだからSPくらい普通だとは思うのだけれど。
「この人たち、多分SPじゃないのよ。よく見れば分かるんだけれど、体が引き締まっていない」
「ほんとだ」
委員長が言っていることが本当ならばSPでは無いのかもしれない。普通SPは要人を守るために鍛え上げられた、アスリートにも勝るとも劣らない力とたぐいまれなる戦闘能力を持つ人たちだものな。
「んでこれ」
もう一つの写真は、椿さんが黒いスーツをチャラそうな男にあげている場面だった。
「まさか……」
俺の脳裏に嫌な想像がよぎる。
「その通り。椿さんは私たちと同じく何らかの力を持っているね。恐らく惚れさせた男を操る能力かな」
椿さんは人を操る能力を持っている……?
「じゃああの女、涼真を操り人形にするためにこんなことを?」
鶫から尋常じゃない殺気が放たれていた。放っておくと冗談抜きで殺しに行くんじゃないか?蘇生なしで。
「その可能性はあるね。でもまだ確定はしていないし、涼真君を狙う理由もよく分からないから何とも言えないけれど」
「しばらく様子見かな」
そう言っておかないと、このまま椿さんを殺しに向かいかねない。
「涼真君がそう言うなら」
鶫はどうにか殺気を抑えてくれた。
「まあ涼真君が浮気をしようだなんて思わなければ何も起こらないんだから、何か起こることは無いよ」
「それもそうか」
そう考えたら深く考える必要も無いな。
俺たちは何をするでもなく、ただの日常に戻ることに。
とは言っても彼氏彼女の関係ではない椿さんと夏休みに積極的に会うかというとそういうわけはなく、椿さんの顔を見ることなく2週間ほどの時が経った。
「意外と連絡してこないものなんだね」
一緒にデートをしていた鶫がそう言った。連絡先は交換していないが、翔経由とかでどうとでもなるはずだ。それなのに何もないというのは椿さんにしては変な気はする。
「あの時スパッと言ったせいかな」
「あの時って?」
「夏休みの頭に椿さんに会ってね。アプローチは嫌だからやめて欲しいって伝えてたんだよ」
「そうなんだ。案外さっくり諦めたのかもね」
「そうだったら良いんだけれど。あ、もう次だよ」
椿さんに関する会話を並んでいたクレープで途切れさせ、楽しいデートへと戻った。
「えっと、何を買うのかな?」
クレープを食した後、映画を見たり、お洒落な雑貨屋でショッピングしたりとデートらしいことをしていた。
その後鶫がここまで来たのなら行きたいところがあると連れられてやってきたのは町はずれにある昔ながらのお店。
これだけなら別に良いのだけれど、商品が商品なのだ。
「勿論、包丁だけど」
そのお店には多種多様な包丁が立ち並ぶ、刃物を専門としたお店だった。
今までの鶫を知っている俺からすると、この店に鶫が来ているという事実が恐怖感を思い出させる。
「料理用だよね」
「うん、少し欠けて切れ味落ちちゃったし、新しいもの欲しいなって」
多分俺の体を骨ごとぶった切った時に欠けたんだろうなあと思いつつ、鶫の買い物に付き合っていた。
「包丁って言っても色々あるんだな」
世界中で料理に使われているのだから数多くの種類が存在するのは知っているけれど、これほどまでとは思わなかった。
普通の包丁以外に、持ち手が何故か二つ付いた包丁、なぎなたみたいな刃がついている包丁等、何に使うのか分からないものが数多く陳列されていた。
「食べ物や食べ方が沢山あるからね。それに合わせて作るのが道具だよ」
確かに、普通の包丁だと切りにくい食材は身近なものだけでも結構ある。それが世界規模に広がるとなるとそうなるのは頷ける。
「これにしようかな。店長、これお願いします」
「あいよ、3000円だ」
鶫は財布を取り出して代金をトレイに置く。
「ありがとう、また来てくれよな」
「はい、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
俺たちは店長に見送られ、店を出た。
「それは何に使うの?」
今回鶫が買ったのは中華包丁。その中でもかなり大きめなものを選んでいた。
「勿論、骨を切り落とすためだよ」
「そ、そうなんだ」
鶫は不自然なくらいに満面の笑みだった。多分豚とかの骨を切ってラーメンとかを作るのに使うと思うんだけど、何か大変なものを切り落としそうな雰囲気を醸し出していた。
「大丈夫、涼真君には絶対に使わないから」
「使わないのが普通ですよね」
軽々しく殺人宣言はしないで欲しい。
包丁を持ったまま街をうろつくのは色々と問題なので、そのまま帰る流れとなった。
「じゃあまた」
「また会おうね。楽しかったよ」
鶫が楽しそうで何より。
俺は鶫を見送った後、電車に乗って帰路に着く。
電車にガタンゴトンと揺られながら、今日の鶫を思い出す。
やっぱり可愛かったな。特にいい包丁を見つけた時のあの笑顔。包丁だからアレだけど、表情だけ見ればアレは素晴らしかった。
そんなくだらなくも素晴らしいことを考えていると、あっという間に降りる駅に着いていた。
俺は席を立ち、電車を出る。
そして駅の構内へと歩き、改札口に定期券を翳す。
ファンという何とも言えない音と共に改札口を通過し、駅を出る。
これが俺の記憶している最後の記憶である。
「どこだここ」
目が覚めると、どこかよく分からない部屋に居た。
椅子に拘束されてはいたが、簡単なもので、単に俺が椅子から落ちないようにしてあるだけだった。
拉致ではあるのだろうが、別に傷をつけたりする意図は無いらしい。
「何ならお茶も置いてあるし」
いつでもどうぞと言わんばかりにペットボトルのお茶が机に置かれており、隣にはお菓子も置いてあった。
むしろ歓迎されているのではないかとさえ思える。
出口が開いていないのを除けば。
誰の仕業かは何となく見当がついていたので、呑気にお茶とお菓子を頂きながら待っていると、その犯人がやってきた。
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