第3話
いつもは瀬名がご飯を作るのだが、一緒に外で遊んだ日に関しては俺がご飯担当になっている。一応男の俺の方が体力自体はあるからな。
料理にも慣れたもので、10分もかからずに完成した。
「美味しそう!」
鶫が目をキラキラさせている。
「「いただきます」」
そんなやりとりをスルーして瀬名と鏡花が食べ始めた。何か感想をよこせや。
それに合わせて俺たちも食べ始めた。鶫は非常に美味しそうに食べてくれている。作った甲斐があるというものだ。
「涼真くんどうやって料理覚えたの?」
「定期的に料理してたから自然とね」
「でも私の方が料理は上手だよ!」
確かに事実だがここで言うんじゃないよ。
「私も涼真よりは上手。まだまだひよっこ」
「どうして二人は俺の株を下げようとしてくるのかな」
「鶫さんは涼真には勿体ない。こんな美人は涼真と釣り合わない」
鶫の腕にがっしりと捕まり、さも当然のように酷いことをいう鏡花。割と見た目には自信あるんだけどなあ……
「そんなことないよ。涼真君はとてもやさしくてかっこいい彼氏だよ」
必死に否定してくる二人を否定してくれる鶫様。本当に優しい……
「もしかして本当に釣り合ってないのかもしれない」
「涼真くん!!!」
鶫が顔を真っ赤にして怒ってきた。可愛い。
ご飯を片付けた後、鏡花が作ってきたというデザートを頂いた。実際に死ぬほど美味しくて料理力のカーストの差をまざまざと見せつけられた。
その後鶫が帰るということで見送りに行くことに。鏡花と瀬名が付いてくると言ったが今回は断っておいた。
「いつもこんな感じなの?」
家を出て、二人に声が聞こえなくなる位の距離になった時、鶫はそう聞いてきた。
「こんな感じって?」
「鏡花ちゃんと瀬名ちゃんのこと」
彼女としては親族でもない女の子とこういった付き合いをしているのは気になるのだろう。
「いっつもああだよ。鏡花が俺に何かいたずらする計画を立てて、瀬名がそれに乗っかってってくるんだ」
誤魔化すのも良いのかもしれないが、いずれバレることだから言っておくに越したことはない。
「仲、良いんだね」
これ選択肢間違えたか?
「仲は良いけど別にその位だよ。特別な感情なんてない」
「鏡花ちゃんはどうなのかな?」
「あいつは俺で遊んで楽しんでるだけだよ。もっと遊び甲斐のある人が現れたら速攻で乗り換えると思うよ」
「本当かなあ」
鶫は訝しげな表情をする。本当なんだがなあ。鏡花に限ってそんな馬鹿なことは無いだろう。
「まあいいや。駅に着いたからここまでだね。じゃあまたね」
「また明日」
俺が家に帰ると、瀬名と鏡花は遊んでいた。
「お兄ちゃんお帰り~」
「ゲームする?」
「やろうかな」
俺たちは数時間ゲームをして、鏡花が夕食の時間になって帰った所でお開きとなった。
俺と瀬名はそのまま夕食を食べ、就寝の為各々の部屋に向かった。
俺はベッドに寝転がり、今日の事を思い返していた。168
瀬名と鏡花に散々邪魔されたが、とても良い一日だった。
鶫が居るだけで気持ちが少し楽しい方向に向くもんだ。いや、鶫が居なくても楽しかったのは事実なんだろうが。
これまでの日々に戻るなんて難しいだろうな。
そんなことを考えながら俺は電気を消し、眠りについた。
そのはずだったんだが。
目が覚めると部屋の電気が付いているし、窓も全開だ。何があったんだと思った矢先に、鋭い痛みが俺の腕に走った。
その痛みの発生源を見ると、深紅に染まった刃が突き刺さっていた。
思わず大声を上げようとしたが、綿のようなもので口を塞がれた。これでは瀬名が危険だ。
俺は痛みを我慢して立ち上がると、
目の前にいる人間は、なんと鶫だったのだ。
「どうしてって……ねえ」
「君は私のものだから」
続けてナイフを突きさす鶫。俺は痛みに耐えるだけで精いっぱいだった。
「なのに、他の女性に愛想を振りまくなんて」
そんなわけがない。一番大切なのは鶫なのに。
「これは教育だよ」
教育なんて生ぬるいものではない。これは処刑そのものだ。
俺はただの冤罪で死んでしまうのか。俺は一体何を間違っていたというのか。
俺はそのまま意識が途絶えた。
そして朝。俺は普通に目覚めた。
焦って俺は周囲を見渡す。
しかし、そこは何の変哲の無い俺の部屋だった。
「俺は鶫に殺されたはずでは……」
そう思い部屋の隅々を探してみるも、俺の血痕すらないのだ。
もっと言えば服にすら損傷が無い。
少なくとも刺されたのは事実なはずなんだ。
夢であそこまで痛いことなんてありえない。途中で目が覚めてしまうからだ。
一瞬ここが死後の世界ではないかと考えたが、ここまで精巧に現世を再現しているはずがない。
一旦生存しているという前提で一階に降りて朝食を準備した。
「どういうことなんだ……」
考え事をしていたせいか、いつの間にか朝食が出来ていた。
「おはよ~」
丁度そのタイミングで瀬名が一階に降りてきた。
「おはよう」
俺は本当に生きているらしい。反応的に何事も無く夜を明かしている。
「ん?何かあった?」
「いや、何も」
俺は夜の事を一旦忘れることにした。
時間になったので学校に行こうと思ったら、鶫が家の前で待っていた。
「おはよう。涼真君。それに瀬名ちゃん」
「おはよー!鶫ちゃん!」
瀬名は鶫の顔を見るなり抱き着いた。
本当に鶫の事が気に入ったんだな。
「じゃあ学校に行ってくるね!」
「いってらっしゃい」
瀬名は少しの間鶫を堪能した後学校に行った。
そして俺と鶫は二人っきりになった。
「おはよう、鶫」
無かったことにしようにも、昨日の夜の事がちらつく。
実際にあったかどうかは定かではないのだが、それでも普通の対応をするのは厳しいものがあったのだ。
「じゃあ学校いこっか」
「そうだね」
俺は言われるがまま学校に向かうことになった。
ちょっと待て。
「鶫、学校に行く前に何で俺の家まで来たんだ?」
返ってくる答えは殆ど一択なのは分かっているが、それでも、聞かなければいけない気がした。
鶫の家がどこかは知らないが、少なくともこの間一緒に帰った時に反対方向であることは分かっているのだ。
だからここに居るということはわざわざ学校の最寄り駅を通り過ぎてここの駅まで来たということなのだ。
「なんでって涼真君と一緒に登校するためだよ?」
「そうなんだ。嬉しいな」
有無を言わせないその笑顔に、俺はこれ以上追及することが出来なかった。
結局何の手がかりも得ずに俺たちは学校に到着した。
そして教室に入る直前に、
「昨日の事は現実だから、ちゃんと理解してね」
と死刑宣告をされてしまった。
そして自分の席に着き、
「おはよう涼真。今日もアツいね」
翔がからかってくる。
「正直それどころじゃない」
殺されたのが現実で、だけど俺は死んでいなくて?
とりあえず昨日のアレが現実だったのなら今の俺は何だったんだ?
そんな考えがぐるぐると頭の中を巡り、目の前にいる親友の対応をしている余裕などなかった。
「おい、紺野」
「は、はい。何でしょうか」
「なんでしょうかじゃねえよ。さっさと330pの5行目からを読め」
「はい」
「鶫はこの間涼真くんの家に行ったんだっけ?」
「そうだよ」
「どうだった?」
「妹さんが可愛かった」
「涼真の妹可愛いもんなあ。だからさ、今度は会わせてくれよな。なあ涼真?」
「ん?ああ」
「さっきの話聞いて無かったのか?」
「ああ、悪い。少し考え事をしていた」
結局放課後になったが、考え続けても一切結論が出ることは無かった。
どう考えても現実にはあり得ないのだ。
そしてそのまま鶫と二人で帰ることになる。
「今日は私の家に来てもらおうかな」
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