第2話
今日は約束通り妹である瀬名と鶫と遊ぶ日だ。
というわけで近くの公園で待ち合わせていた。
俺たちが来てから数分後、鶫はやってきた。そして開口一番、
「か゛わ゛い゛い゛い゛い゛い゛」
と瀬名が突然感極まって鶫に抱き着いた。
「この子が妹さん?」
突然抱き着かれたことに驚きつつ俺にそう聞いてきた。
「そうだよ。うちの妹がごめんな。可愛いものには昔から目がないんだ」
「むふー」
かわいいものこと鶫を抱きしめてご満悦な表情をしている中、もう一人知っている人がやってきた。
斉藤鏡花だ。彼女は俺たちの家の隣に住んでいる瀬名の幼馴染だ。
「おはよう涼真」
「おはよう」
「瀬名に抱き着かれてるのが涼真が連れてきた人だよね?」
「まあな」
鏡花は瀬名の醜態には慣れたもので、何事もないただの背景として扱っていた。
「あれ見てどう思う?」
唐突に鏡花があの二人の光景について聞いてきた。
「突然どうした?まあ妹と彼女が仲いいことに関しては非常にいいことだと思うけど」
とりあえず無難な感じで返答しておいた。
「それはそうかもしれないけど、抱き合っているあの状態はどうなの?」
どうやら鏡花さんは逃がしてくれないようだ。
「非常に見栄えの良い光景だと思っております」
「なるほどね」
何かを決めたと言わんばかりに鏡花が抱き着いてきた。こんな唐突に奇行をする鏡花は見たことが無い、じゃなくてここは瀬名と鶫の目の前なんですけど!?
「あ、あの?鏡花さん?」
「美女二人が抱き合う光景は見栄えが良い。つまり、美男美女で抱き合っていてもそれは見栄えが良いよね」
しれっと自分の事を美女にカテゴライズしましたね鏡花さん。ではなく、見栄えが良いからって絶対にそれが理由じゃないでしょ!
「たとえ見栄えが良かったとしてもね?体裁は非常に悪いんだよ?実態は不倫だよこれ?」
「ん~♪」
この人絶対聞こえているはずなのに聞こえてないフリしてるよこの人。
だけどこの人を無理やり引きはがすとそれはそれで面倒だからな……
鏡花の処遇をどうしようかという悩みに思考を取られているため、瀬名が十分に満足してこちらの方へ戻ってきていることに一切気付けなかった。
「お兄ちゃん?」
「涼真さん…… 誰と何をやっているのですか?」
あ、これ終わった。
俺は慌てて鏡花から離れよう、としたらそれよりも先にスッと自分から離れていった。
「涼真が寂しそうにしてたから抱き着いてた」
「鏡花さん!?」
当然私は悪くないと言いたいかのように彼女は堂々としていた。
そう、あまりにも堂々としていたのだ。
つまり、それが何を指すかというと?
「お兄ちゃん?こんなに可愛い彼女がいるのに他の人に色目使うの?いや鏡花ちゃんもめちゃくちゃ可愛いけど?そういうことじゃないよね?」
妹が鏡花側に立ってしまうということ。当の鏡花は妹の後ろに立ち、俺を見てにやにやしている。
こいつは単に俺をからかって窮地に立たせるのが大好きなだけなのだ。
ただし!今回は二人だけじゃないのだ。そう!俺には今回は彼女がいる!
さあ、鶫さん。俺の味方になってくれるよね?
と熱い視線を送ってみる。
「涼真さん……」
しかし、鶫さんの目のハイライトが消えていた。あっこれ鶫さんも敵に回る奴だ。
「あの?鶫さん?俺はそんなつもりはないんですよ?これもそれも鏡花が……」
「まだ言い訳をするの?鏡花ちゃんが理由も無しにそんなことするわけないじゃない!」
俺は完全敗北を察し、土下座をすることで場を収めた。俺は悪くないのに……
どうにか許しを得て、本題の今日は何をするかという話題に移行できた。
「さて、気を取り直して。何をする?鶫さん、鏡花ちゃん?」
瀬名は二人に何をするかを聞く。基本的に瀬名と遊ぶときは、ゲストに何をするか聞くので多分怒っていないはず。
ちなみに鏡花は瀬名に鶫を連れてくるって話したら、運動系で三人だと暇な人が出るからってことで呼ぶことになった。それのせいで甚大なるダメージを負うことになったのだが。
「私は何でもいいですよ」
鶫は鏡花に何をするかを丸投げした。
「そうですね…… ならバスケットボールとかはどうでしょう?」
「ならバスケットボールで決定だね!」
鏡花は俺に何の恨みがあるんだ。
鏡花と瀬名は現役のバスケ部で、試合にも普通に出ている部のエースだ。確実に俺が鶫に良いところを見せられないようにそのチョイスしたと思われる。
俺たちは公園の一角にあるストリートバスケが出来る所へ向かった。
「さて、やりましょうか」
上着を脱ぎ、臨戦態勢となった鏡花。ここまで気合の入っている鏡花は初めてかもしれない。
「組み合わせはどうする?」
念のため聞いてみる。
「当然私と瀬名ちゃん、そしてカップルのお二人ですよね」
いやなんかそんな予感してましたとも。もう既に向き合う構図でしたし。
何も知らない鶫は年齢差と身長差を見て少し申し訳なさそうな雰囲気を見せている。
「正気で言ってる?」
「そうに決まっているじゃないですか。せっかくのカップルなのだから最高のコンビネーションを見せてくださいよ」
というわけでバスケ部エース2名による蹂躙が始まるのだった。
「鏡花ちゃんパス!」
「オッケー」
二人は中学で培ってきているパスワークで俺らを翻弄し、最終的に俺の方からシュートを決めてくる。
そして手番が俺たちの方に回ってくるが、その時も俺の出したパスをカットするか俺がドリブルで抜こうとしたタイミングを見計らって奪われる。
完全に俺の尊厳を奪うためだけに練られた最悪のコンビネーションだ。良いところを見せるとかそういう次元の話ではない。
「お兄ちゃん?彼氏なんだからいい所見せないとね~」
そして散々煽ってくる。こいつら……
「鶫ごめんな。こんな茶番に付き合わせちゃって」
「いいよ。それに瀬名さんが楽しそうにしているのを見ていると私も楽しいから。だって将来の義妹だもんね?」
今までで最高の微笑みを見せる鶫様。俺はあっさりと心臓を杭で打ち抜かれてしまった。
「涼真さん、早く続きやりましょうよ」
鏡花が急かしてくる。流石にもう始めないとな。それに良いところの一つや二つ見せないと。
「鶫!」
俺は基本的にサポートに回ることにした。バスケ部のエース二人が俺に対して徹底的に仕掛けてきているのがきついこと自体に間違いはないが、それでも中学2年生の女子なのだ。勝てる部分はそりゃあある。身長だ。
ということで俺はドリブルを半ば諦めることにした。
常にこの二人が届かない位置からパスをするのだ。鶫も二人より身長が高いことが幸いした。
守備に関してはどうしようもなかったが、攻撃に関しては鶫も何回かシュートを決めることが出来た。
俺自身はあまり活躍できなかったが鶫は楽しめたんじゃなかろうか。
1時間程バスケを楽しんだ後、公園での運動は終了した。
俺たちはバスケを終えた後、俺の家に行くことになった。
その際、バスケで全力を出し切ってしまったらしく、鏡花が動けないとのことでおんぶして連れていくことになった。
そこまで俺を潰すのに全力にならなくても…… バスケの大会の応援しに行ったときですらここまで疲れ果ててなかったぞ。
そして何事も無く家の前に付き隣の家に鏡花を置いて来ようとしたら、完全復活とかいって元気になった。
こいつ楽したいだけだったわ。
「これが涼真さんのおうち……」
鶫は俺たちの家を見て嬉しそうな表情をしていた。お家デートとかは瀬名がいて不可能だったからこういう機会に誘えてよかった。
「じゃあ適当に座って待ってて」
俺は3人にリビングで待ってもらい、その間に昼ご飯を作ることにした。
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