第5話
「はあ、全くもう。別に良いよ、見られて困るものじゃないし」
「本当ですか?」
「でも、一緒に見たかったなあ」
鶫は本棚から本を取り出し、その裏から何かを取っていた。
「これ、何でしょう?」
「アルバム?」
「そうだよ。本当の中学時代のね」
「じゃあこれは?」
「高校生になってから中学校の友達と遊びに行った時の写真だね」
「なるほど」
だから今と見た目が全く変わっていなかったのか。
「でも今回はおあずけだね。のぞき見した罰だよ」
「そんな殺生な……」
俺の馬鹿な行動により真の中学時代を見るチャンスを逃してしまった。
それならば、今の鶫を!
慌てていたので気付かなかったが、風呂上がりで髪が濡れている。さらにパジャマ姿だ。
いつもとは全く違う雰囲気で、特別感があっていいな。
「どうしたの?」
俺の真意が読めない鶫は困惑した表情でこちらを見てくる。
破壊力しかない。
「何でもないよ。とりあえず髪を乾かしたら?」
「そうだね」
鶫が鏡の方を向き、ドライヤーで髪を乾かしている。
俺はそれを正座しながら見ていた。
数分時が流れ、
「よし、明日も学校だし、寝ちゃおっか」
「そうだね。じゃあ床で寝るよ」
「だめ、体痛めるから」
そう言いながら鶫は自分のベッドに入る。
「えっと……どういうことでしょうか」
「どういうことって、こういうことでしょ?」
ベッドをぽんぽんと叩く。
「一緒にってこと?」
「そりゃそうだよ」
非常に魅力的な提案ではあるが、流石にその段階は早すぎると思う。
「別に何か変なことをしようってわけじゃないんだし、付き合っているから問題ないよね?」
「確かにそうだけど……」
「じゃあ決定ね」
俺は初めて泊まった彼女の家で、彼女のベッドに二人で寝ることになった。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
俺は平静を保とうとしているが、どう考えても無理じゃないかな。
ホテルとかのベッドと違って小さいし、布団と違って床に逃げることで距離を取ることも不可ときた。
ならせめて壁に張り付いて、と言いたいところだが、壁側は鶫だ。
心を消して寝ようにも鶫からするいい匂いが気になりすぎるし、鶫の体温がずっと感じられて心臓がバクバク言いまくっていて眠れる気配などない。
でも、鶫も同じだから……
そう思って鶫を見ると、ぐっすりすやすやだった。
鶫様には叶いません。
せめて目を瞑るだけはしておこう。
そう思った矢先、鶫に抱きしめられた。
これが俺の最後の記憶となった。
「おはよう涼真君。朝食の準備出来てるよ」
朝目が覚めると、鶫は既に起きていた。
「おはよう。ありがとう」
俺は用意されたテーブルに着き、早速食すことになった。
献立はご飯に鮭。そしてキノコ入りのお味噌汁に卵焼きだ。
「ささ食べて食べて」
「いただきます」
非常に美味しそうだ。彼女補正もかかっており目の前の料理はさながらプロの作った日本料理だ。
早速卵焼きを食べてみる。
流石は鶫だ。しっかりと出汁が効いていて美味い。非常にご飯との相性の良い一品だ。そして鮭。非常に良い焼き加減で、ぱさぱさにならない様に最低限の時間で焼き上げているのに皮が綺麗に焼けている。かなり研究したのだろうか。
ここまで真剣に料理に取り組んでいるわけではないので詳しいところは分からないが。
「とても美味しいよ。まるでお店みたいだ」
「本当!なら良かった」
俺の反応をみてガッツポーズをする鶫。可愛いな。
「ただですね、置いといて何故鶫は正面じゃなくて俺の横でご飯を食べているんですかね」
この机は正方形のテーブルだ。基本的に一辺当たり一人が基本のスペースなはずなんだが。
「いいからいいから。気にしないで」
俺の指摘に返答をすることなく、横に座り続けた。
まあ鶫が邪魔って程机は小さくないから良いか。
「はいはい」
そして大体料理も食べ終わり、最後に残っていた味噌汁を飲むことにした。
食事は食べ順に気を使うと消化に良いだとかバランスよく手を付けていくの食べ方がマナー的に正しいとか言われているが、味噌汁は締めに飲むものだろう。
温かいお茶を最後に飲むようなものだ。
それに一番手が込んでいるように感じたということもある。
簡単に豆腐を切ってわかめを入れただけでなく、キノコ以外にもニンジンなど様々な具材が入れられており、非常に考えられたものだと見受けられる。
普通味噌汁の具は限られているイメージがある。ここまで多い場合は豚汁に変化する気がする。
しかし、これは味噌汁の状態を保ったまま具沢山なのだ。
具が多いと調和を保つのが難しいような気がするのだが、非常に美味しかった。
朝食でここまでしてくれるのは流石としか言いようがない。
「ごちそうさま。とても美味しかったです」
「それなら良かった。さあさあ準備しましょう」
本当にただの良い彼女なんだよなあ……
その後歯磨きや洗顔等、朝の支度を済ませた後、鶫の準備を待つ間食器を洗って待っていた。
女子は支度に時間がかかるらしいからね。
「お待たせ、食器洗ってくれてありがとう」
「朝食作ってもらったからその分はね」
あれだけもてなしてもらって何もしないのは少し罪悪感があったからな。
それでもお返しを出来ている気はしないけど。
いや、殺されたお詫びって考えると話は別なのかもしれないけど。
「じゃあ」
鶫はそれだけ言って俺の手を掴む。
「手を繋ぐのですか、鶫さん」
の割には掴み方が握手だ。
「勿論。嫌かな?」
上目遣いでこちらを見る。
「そんなわけないよ」
俺は握手の手を取り直し、ちゃんと手繋ぎの形にした。
「料理ってどうやってあそこまで上手くなったの?」
「おばあちゃんに教えてもらった。だから和食くらいしか美味しく作れないけどね」
「そうなんだ。料理がとても上手なおばあちゃんだったんだね」
俺たちは他愛の無い会話をしつつ、学校まで向かった。
手を繋いだまま学校まで来てしまったため、当然奴らに見つかるわけで。
「やあやあ涼真。とてもお熱いことで。本格的に見せつけてくるねえ」
「まさか二人がここまで大胆だとは思わなかったよ」
奴らとは翔と委員長だ。
「うっさい。別に俺たちの勝手じゃねえか」
「別に目の前に広がっている光景を実況しているだけだよ、ねえ委員長」
「そうだよねえ。別に涼真君に何か言っているわけじゃないよねえ」
嘘つけ。最初から誤魔化す気も無く思いっきり俺たちに対して直接言っているじゃねえか。
「これって駄目だった?」
手を繋ごうと言い出した鶫がシュンとした顔をする。
「ほら、鶫が気にしたじゃねえか」
「いやいや、悪くないよ。単に涼真をからかいたかっただけだから」
「そうだよ。別に悪いことじゃないんだよ」
慌ててフォローを入れる二人。その気遣いを俺にも向けてくれないだろうか。
「なあなあ。ちょっと来てくれや」
二人が鶫の相手をしている中で、何者かによって両腕をホールドされた。
男子の方々だ。
「何か悪いことでもしましたか?」
「お前の胸に聞いてみるんだな」
俺は鶫の目の届かない所に連行された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます