第15話

「これ以上やったら涼真様がどうなるか分かっているの?」


 俺を人質に取ったことで冷静になった乃絵。しかし、


「勝手にどうぞ」


「処理、処理」


 二人は完全に無視。蘇生できるんだからそりゃあそうだ。


「止めなさい!早く!」


 SPは全員で二人を止めるべく襲い掛かる。しかし怪我を一切恐れることなくナイフを振るう二人を素手でどうにか出来るわけも無く。


 最初は大勢いたはずのSPがいつの間にか手で数えられるほどになっていた。


「どうして?涼真君が死んでも良いの?」


 そう叫ぶ乃絵に対して、微妙な顔をする委員長。


「別に……」


 一応死ぬのは痛いんだからな。少しくらい尊重してよ。


「まあでも、残っている人たちには勝てないわ。本物のSPなんだもの」


 闘わずに後ろで見守っている奴がいるなと思ったらそういうことか。二人の戦い方を見分けるために偽SPを使ったと。


 流石に厳しそうだな、と思ったが、鶫が死体に向かって何かし出した。蘇生をするようだ。


 先程の戦いで死んだはずの男達が、次々に立ち上がり始める。


「俺はどうしてここに?」


「うわ、死体!?血が!?」


「なんで俺はスーツを?」


 目が覚めた男たちは、先程までと違い周囲の状況に困惑している。


「どういうこと?生き返った?それに元に戻っている」


 乃絵は目の前の光景が信じられないようだ。


「はーい皆さん!あなたたちはここに居る女の子と、目の前にいる屈強な男のせいでここにいます!」


 委員長はここに居る全ての人に聞こえるようにそう話した。


「それは本当か?」


 元黒服の一人が委員長に質問する。


「はい、そうです!私たちは今捕まっているそこの男の子を助けるためにやってきたんですけど、近くにあなたたちが居たので助けました!」


「騙されないでください!この女性はあなた達を刃物で傷つけたのですよ!」


 冷静になった乃絵が男達を味方につけようと反論する。しかし、


「確かに服は切れているけど怪我はしていないしなあ」


「痛い所はどこもないし、何なら目が覚める前よりも調子が良い」


 鶫の蘇生は体にあった傷を完全に治してしまう。この男達を傷つけた証拠は一切残っていない。


「よろしければ私たちの友達を助けてはくれませんでしょうか?あの男達は武器を持っていません。この人数なら問題なく押しつぶせます!」


「可愛い嬢ちゃんに助けられたんだ。お返しをしてやろうぜ!」


「あの男達は多分強いです。まともに戦ったら勝てるわけがありません。ただぶつかって轢いてください!」


「「「分かった!」」」


 元黒服たちは現黒服たちに向かって全力ダッシュを始めた。当然反撃しようとする現黒服ではあったが、委員長のお陰で受けた瞬間に回復するので痛みを感じない。


 あっという間に現黒服は轢き殺され、足蹴にされていく。残るのは多数の足跡を付けられて仰向けになっている現黒服。


 そんなギャグマンガの一パートみたいな光景を増やす事数分。現黒服は全て駆逐された。


「ありがとう皆さん!ここからは二人でどうにかします!」


「頑張れよ!」


「ありがとな!」


 元黒服たちは二人に挨拶をしてから去っていった。


「残るは椿さんだけだね。涼真君を攫った代償はちゃんと払ってもらうよ」


 鶫は殺気を放ちながら一歩、また一歩近づいていく。


「近づかないで!」


 俺に刃を当て、ガタガタと震えながら叫ぶ乃絵。これではどっちが悪役なんだか。


「待って!」


 そんな二人を遮るように背後から声がした。それは先程の騒動に現れなかった俺のよく見知った男。翔だ。どうやら戦いには現れず、様子を見ていたらしい。


「何?」


 早く殺したいんだと言わんばかりにイライラした声で反応する鶫。


「乃絵が悪いのは十分に分かっている。だけど危害を与える気は無かったんだ!」


 乃絵を庇うように鶫の前に立ち塞がる翔。


「久世君も操られているんじゃないの?」


「半分ね。僕はSPとして生まれ、乃絵を守るために生きているっていう過去がある」


「なら殺してあげないと」


 元に戻すために刃を突き立てようとする。


「でも、それが嘘だってことは最初から分かっているんだ。そんな過去は僕に存在するわけがない。この体を見てよ」


 翔の言う通り、これで戦えというには無理がある。


「じゃあ何でここに居るの?」


 自分がSPでは無いと理解をしているのにここに来る理由なんて無いはずだ。


「乃絵の事が昔から好きだからだよ。本人には言ったことは無いけれどね」


「え……?」


 乃絵は驚いてナイフを落とす。


「嘘じゃないよ」


 翔に感じていた違和感はこれが原因だったらしい。


 妙に乃絵の肩を持つ理由もよく分かるし、恋仲にならないように忠告してきたのは全てこのためだったのだ。


「じゃあ何のためにこんなことを……?」


 乃絵はすっかり戦意を失い、絶望の表情をする。


「どういうことだ?」


 俺は乃絵に真意を聞く。


「今までの事は全て、翔様と付き合うためだったの」


 乃絵は全てを白状した。


 転校してきたのは、翔の近くに行くため。


 でも、乃絵は翔と付き合えるかどうかが分からなかった。より確実にするために翔の友人である俺に猛アピールすることで反応を伺った。


 けれど翔の真意は伺えなかったため、ちゃんと彼氏にしたらどうなるかを試すためこの計画を実行。そして見事失敗とのこと。


 そこまで積極的に行動した後、翔と付き合うのは周囲の反応的に難しいのではないかという疑問には、記憶操作でどうにかするつもりだったと答えた。


 本来ならさらっと事を終えられた筈だったけれど、対象が俺だったためにここまでこじれてしまったらしい。


「そんな事のために涼真君にこんなことをしたんだ……」


 当然鶫はブチギレ。許すわけないよなあ……


 というよりこんなことをされた大抵の人が許すわけがないだろう。拉致監禁は普通に犯罪だし。鶫からすれば略奪の方がより重い罪になってそうだけど。


「許されないだろうとは分かっています」


 でも気持ちは分かる。もし何をやったとしても無かったことに出来るのであれば、人道に反していてもやってもいいかと考えるだろう。ある種の免罪符に近い能力だから。


「なら私達に何かお詫びでもして貰おうかな」

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