7

 暗い部屋の中。


 時刻は午前2時。


 あたしはこの家の主、ズーミンさんの寝室で、ベッドに横たわっていた。

 彼は私に気を遣って、リビングで毛布に包まっている。リビングから寝息は聞こえないが、しっかりと生命反応がある。

 ステイティア・アンドロイドに睡眠は必要ないことを伝えそびれてしまい、あたしは少し罪悪感を覚えていたが、「客人だから、いいんだ」と、彼は私に優しかった。人の優しさなんて忘れかけていたけれど、500年前のこの星に生きていた彼のことは、なんだかそんなに警戒しなくていいように思えた。


 それにしても、この時代の人間は眠るのが早い。それに睡眠中の部屋のセキュリティも薄い。

 平和な世界なんだなぁと、どこを見てもそう感じる。

 ベッドから降り、一つしかない部屋の窓を開ける。身を乗り出して外の空気を吸うと、酸素濃度があたしの時代より高くて、不純物も少ない。空は曇天だったけれども、街には爛々と明かりが灯り、何にも怯えないで人々が過ごす旧上海の姿が、資料よりも遥かに鮮明に、伝承よりも確かな現実として、そこに広がっていた。


 そういえば、彼は何時に起きるのだろうか。私の時代だと、人間は3時間も眠ればもう目を覚ますのに、かれこれもう4時間、彼は目を覚ましていない。

 動物のように日が昇ってから活動するのだろうか。だとすればあと3時間半も、このままあたしは一人きりだ。


 一人はダメだ。


 悪いことばかり頭をよぎる。


 このままルシアに会えずに機能停止してしまったら。

 この時代まで組織の人間が追って来たら。

 もしそうなってしまえば、あたし1人では何もできない。

 そう考えて、また、自分に絶望する。誰に対してなのかもわからないまま、罪悪感に苛まれる。


 本当に、あたしは、こんなにも弱い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る