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 座標3874098m23440001n210000000iAqj。

 わたしが辿り着いた時空は、500年前の地球だった。

 500年前などという無理な座標指定をした結果、わたしのシステムゾーンは情報解析処理が間に合わず、一時的にシャットダウンしてしまった。

 だけど成功した。わたしはこの星の活動可能圏内に飛ぶことができた。

 みんなは無事だろうか。位置情報をサーチする。


 ………。


 いた。ルシアだ。ルシアもこの星の活動可能圏内にいる。

 ほかの3人は、位置情報が把握できなかった。


 つまり、この星の活動可能圏内には、存在していない。


 情報共有サーバーは時空間を移動しても機能しているはずだから、彼らの最期を確認しなければ。

 わたしには、その義務がある。


 グリマは、地球内部に飛んでしまっていた。

 彼はマントルの中で融解した。


 エマとナギサは、宇宙空間に飛んでしまっていた。

 エマは今も機能停止した状態で宇宙空間を漂っている。

 ナギサは彗星の引力に引かれて、粉々になってしまった。


 3人には、もう2度と会えない。

 いや、正確にはまだ、今この時点では生まれてすらいないのか。

 500年後、世界がめちゃくちゃになった時に、わたしたちは生まれる。

 そして出会うんだ。

 どうしてこの時代に生まれてこれなかったんだろう、なんて思えてくる。

 まあこの時代の科学力じゃ、わたしたちは生まれられない。


 そういう運命。


 「ルシアに会わなきゃ…」


 わたしが飛んできた座標は、どうやら〝冷蔵庫〟というモノの中らしい。ひんやりと冷えている。データのとおりだ。少し寒い。

 わたしは〝冷蔵庫〟から出て、あたりを見回した。

 そこはデータでしか見たことのない、過去の世界だった。

 どうやら誰かの家らしい。少し狭いから、共同住宅、かな?

 わたしは近くに立て掛けてあった物をまじまじと見た。


 これは…〝楽器〟だろうか。

 データの量が多すぎて名前まではわからない。もともとわたしはナギサと違って、音楽的センスがない。楽器の名称や奏法なんて全くわからない。

 弦が2本ある、線の細い綺麗な楽器だった。


 あれ?


 人だ。


 ナイフを右手に握った男性がいる。


 後ろ姿に見覚えがある。


 喉が渇く。喜びで声が震える。


 「ルシア?」


 「うわあああああああ!!!」


 ルシアが悲鳴をあげた。どうしたのだろうか。びっくりさせちゃったのかな。

 「ねえ、ルシアでしょ?よかった!ねえ、無事だったの?どうしてここにいるの?あなたの位置情報はもっと遠くの座標になってるのに」


 だけど彼は、わたしの名前を呼んではくれなかった。


 「ズ、子涵…?」


 「え…?」

 「え…?」


 彼はルシアじゃなかった。わたしも、子涵ではなかった。

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