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 知らぬ間に我が家が死体遺棄の現場になってしまったことに対し私は驚き、いや、人間の死体など見るのは実は初めてでもあり、私は困惑した。頭が回らない。この女性は誰だ。私の夕飯はどうなる。いや、そんなことはどうでもいい。声がでない。息ができない。体が動かない。どうするべきだ。まだ死んでいるとは限らないこの女性をまずは冷蔵庫から引き出すべきか。関わらずに警察局に連絡するべきか。いや、そうじゃない。この女性はなんらかの手段でこの部屋に入りこの冷蔵庫に入ったのだ。鍵は、かかっていたはずだ。いやかかっていただろうか。いや、問題はそこじゃない。この女性がもし何らかの事件に遭ってここに遺棄されたのだとしたら、この女性以外にも誰かがこの部屋に…!!


 途端に私は恐ろしくなった。心臓の動悸が、汗の滲む音が、いるかもわからぬ侵入者に聞こえてしまっては居場所がバレてしまうなどと考えていた。


 後になって思えば、帰ってきた時点で私がこの部屋にいることはバレバレだろうし、そもそも汗の滲む音などない。しかし私は本気でそう思っていた。それほどに恐ろしかったのだ。


 私は小さなナイフを護身用として右手に握り締め、前後左右、更には上下まで細心の注意を払って、まずは玄関の戸締りを確認し、慎重に慎重に、自宅の部屋を見て回った。

 寝室、練習室、トイレ、風呂、玄関、もちろんクローゼットの中も棚の中もゴミ箱の中もチェックした。しかし、侵入者はどこにもいなかった。窓も全て施錠されていた。


 しかしそれだけで安心などできない。相変わらず冷蔵庫の中には見知らぬ女性が詰められて…。


 そう思い私は、扉を開けたままの冷蔵庫を一瞥した。そして、戦慄した。


 あの女性がいない。


 消えている。どこへいったのか。自力で出たのか。冷蔵庫から落ちてしまっただけか。それともやはり息を潜めていた侵入者によって…。


 「ルシア?」



 「うわあああああああ!!!」

 私は悲鳴をあげた。私の後ろにいつの間にかあの女性が立っていた。

 私は知らぬ間にどこか心霊スポットにでも行ってしまったのか。

 この超常現象は一体何だ。私は死ぬのか。死ぬのか。怖い。

 

 私は完全にパニックになっていた。


 しかし彼女は私とは真逆に、顔には笑みを浮かべていた。


 「ねえ、ルシアでしょ?よかった!ねえ、無事だったの?どうしてここにいるの?あなたの位置情報はもっと遠くの座標になってるのに」


 そう言って私の方へ詰め寄ってくる。 


 その顔を見て、私は、ある人物の面影を見つけた。

 思わずその名が口を突く。


 「ズ、子涵ズーハン…?」


 「え…?」

 「え…?」


 私はルシアではなく、彼女も、子涵ではなかった。

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