ファッションホテル『ピシナム』。それが、主人公の職場だった。
今では閉店し、見る影もない。
しかしある日、主人公を取材したいという女性が現れた。
彼女との会話をきっかけに、彼の心はあの頃へと戻っていく。
『R』と勝手に呼んでいた、名も知らない少女との声を使わない交流の日々に。
何処か寂しげな一人ぼっちの少女と、ホテルの受付である主人公。
二人を繋ぐものは、客とホテルマンという間柄だけ。
描かれるのは、自分に自信が無く浮遊する青年と、心をある場所に残してきた少女の交流。その切なさに、胸が締め付けられる思いです。
本当に理解することは不可能で、それでも知りもしないではいられない。
『海のシンバル』。そのタイトルの理由がわかる時、あなたは何を思うのでしょうか。
ご縁があり、この物語に出会いました。読み終えましたので、レビューさせていただきます。
本作は海沿いの街にひっそりと佇んでいたファッションホテル『ピシナム』で働いていた青年が、かつて働いていた時に出会った少女との出来事を思い返すところから始まります。その後に繰り広げられるのは、顔も合わせないままに行われる手紙のやり取り。二人はその中で、恐る恐る互いへと踏み込んでいきます。
青年の彼に内包された苦悩や不器用さ。少女の秘密と、ある出来事によってその内側に宿ってしまった、強烈な孤独。それらが圧倒的な表現力によって書き表されており、気がつくと読み終えておりました。没頭してしまったこの感じは、まるで海に引き摺り込まれてしまったかのような気分です。
ラストの展開は怒涛ながらも、「何か」があったという余韻に浸れるような。もちろん言葉にすることもできるのでしょうが、それは是非、読んでみて、そして感じていただきたいものです。
他の皆さまも是非読んでみてください。