おまけ
その晩、料理長は朝食の仕込みの途中で粉が切れ、地階の貯蔵庫へ粉袋を取りに行った。夜の貯蔵庫は薄暗い。片手に燭台を持ち、重い袋を抱えて階段を戻ってきたところ、上の階から軽い足音がするのを耳にしたと言う。
何者かと段を上り切ると、闇に紛れて何やら濃い色の物体が宙を揺れ、薄明るい布が舞いながら遠ざかっていくのが見えた。どう考えても大きさは子供くらいで、賊だとは思えない。
まさか自分の作り話がまことだったはずもあるまいとは思い、きっと見間違いだろうと言い聞かせたが、翌日城勤めの者たちに話してみたところ、我も我もと妙な目撃証言が次々に出てきた。
料理長は首を傾げ、侍女は不安を口にし、大臣が眉根を寄せる中、話を振られた兄王子は一人、一瞬の沈黙ののち、穏やかに微笑んだ。いわく、「次は話しかけるといいかもしれない」と。
脇に控えた若い衛士が笑いを堪えていたのに、気付いた者はいなかったのだろうか。
この話はシレアの城に、後々まで語り継がれたとかそうでないとか。
——完——
このお話は長編ハイ・ファンタジー シレア国シリーズのスピンオフです。
https://kakuyomu.jp/users/Mican-Sakura/collections/16816452219399453347
王女と王子が巻き込まれた十余年後の大事件も見てくださいましたら幸いです。
このスピンオフにまつわる十余年後のおまけのおまけは、後日「あの人の日常や非日常」にて。
最後までありがとうございました!
小さい王女の夜の冒険 蜜柑桜 @Mican-Sakura
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