169 第50話 Dの悲劇 27 【500年前の復讐15】

【前回のお話】

魔法剣士ガンツと大賢者バンバラによる奇襲攻撃を受ける邪竜族ダゴン!

だがダゴンは難なく二人の攻撃を躱したのだが、そのダゴンに対して何者かが遥か彼方から聖なる力の一撃を放つ。

ダゴンは直撃をくらい致命傷を負ってしまった。


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突如遠方より放たれた〈勇者の雷斬ジゴブレイク〉と〈聖女の光矢セイントアロー〉がダゴンを襲った。

放ったのは白い聖闘衣を纏い、巨大な聖剣を握る青髪の精悍な男。白基調の聖衣を纏う亜麻色短髪の美しい女。

二人はこの時代の女神の使徒。ラバンス・リースティンとカロン・リースティン。

前に邪竜族化したマークス達を倒した真正勇者と真正聖女だ。


ティラム世界の守護者ガーディアンである二人は、将来的に災害級の魔物となることが確定しているダゴンを始末しに来たのだ。

(邪竜族化した竜族は、目的復讐を達成すると己の存在意義の消失とともに自我が壊れ災害級の魔物と化してしまう)


「ダゴン。結局あなたも“邪”に堕ちてしまったのだな」

「残念だわ。せめてもの慈悲です。苦しませず速やかに終わらせましょう」


能面のように無表情。抑揚のない声で二人は呟く。だがラバンスとカロンは発した言葉どおり残念に思っていた。


二人は自らすき好んで聖敵を討伐して回っているわけではないし、それどころか望んで勇者と聖女になったわけですらない。

女神テラリュームの【神託】と【祝福】により突然勇者と聖女に任命されたのである。

そんな二人は【女神の名の下に】とはいえ、ティラム世界の潜在的脅威達を討伐して回る事は、実は精神的に苦痛であり重圧なのだ。

討伐対象の事情を知れば討伐の決心が揺らぐ事だってある。それを押し殺してこれまで任務を遂行してきたのである。

そして今回のケースで言えば――


「ダゴンを邪竜族堕ちさせた最後の一押しは(マークス達を殺した)自分達かもしれない」


――との自責の念もあり、やり切れない気持ちでいっぱいなのである。

だがそんな気持ちをかなぐり捨て、二人はダゴンにトドメを刺そうとした。

だが二人は異変に気付く。


「む?」

「え?」


シュウウウウウウ……


『むぐっ。ぐうぅぅぅぅ……』


勇者と聖女の一撃で欠損・損傷した身体の部位が急速に修復。なんとダゴンは復活した。


「驚いた。あの深手を瞬時に回復出来るのか」

「どうやらただの邪竜族堕ちではないようね」


ラバンスとカロンは勇者と聖女必殺の一撃を喰らってなお絶命しないダゴンに少しだけ驚きマジマジと観察した。


「どこからか謎の力がダゴンに流れているようだな」

「その力がダゴンを回復させているのね」


ダゴンは【邪竜アパーカレスの加護邪竜の力】を受け強化されている。超回復できるのはそのおかげだ。

しかも【ケンツと戦った時代のアパーカレス】と【この時代のアパーカレス】とではその力はまるで違う。

対ケンツ戦時のアパーカレスはバークの身体 (と黒魔石)を依り代として召喚勇者3人分の聖属の魔力を糧に辛うじて変則的・変異体的に復活した。

しかしこの時代のアパーカレスは黒魔石に頼らず、しかも召喚勇者21人分の聖属の魔力を糧にして成長した完全成体の邪竜だ。

必然的にこの時代のアパーカレスの方が強く、ダゴンに与える加護も比例して強くなる。それこそ瀕死の状態でも即座に完全復活するほどに。


『ふふふ、待っていたぞ真正勇者! そして真正聖女よ! 貴様達に殺されたマークス達の無念と恨み、今こそ果たさせてもらおう!』


ギュルルルルウゥゥゥゥ……


ダゴンはニチャリと狂気と狂喜の笑みを浮かべた。そして周囲の魔素と瘴気を取り込み固形化して武具を生成。青黒い鎧ドラゴンアーマーを纏い黒き大剣を握った。

その姿はまるでダゴンの怒りを具現化したかのように酷く禍々しい。


『いくぞ、 竜の発剄ドラゴニックオーラ!』


自身に【竜に連なる者】特有の強化術を最大に掛け、まるで瞬間移動したかのようにダゴンは突撃する!


『死ねい!』


ダゴン狂気の一閃!

音速を超えた黒き剣がソニックブームを発して勇者ラバンスの首を刎ねにかかる!

しかし――


ガキンッ! ドゴッ! ギュリリリィ……


ラバンスはそれに難なく斬撃に聖剣の刃を合せた。

瞬間、周囲に衝撃波が走り大気が震える。


「ふん」


そして表情一つ変えずにダゴンの跳ねのけ、逆に。


ザンッ!


『ぬっ!? ぐぅ……!』


逆にダゴンを袈裟斬りにした!


ラバンスの斬撃はダゴンの青黒い鎧ドラゴンアーマーを易々と断ち斬り、致命的な深手を負わす。

肩から青黒い鎧ドラゴンアーマーが肋骨ごと断ち割られ、バックリと裂けた傷口から夥しい血を吹き出す肺臓がえた。


しかしダゴンの鎧と傷は一瞬の間をおいて即座に回復。と同時に反撃!


『でええええええええええええい!』


ギュリッ! ズバッ!


しかしまたしても軽くあしらわれ袈裟斬りにされる。


『まだだ! はあああああああ!!』


キンッ! ザシュッ!


またまたしても返り討ちの袈裟斬り。


『ぐおおおおおおおおおおおお! なんのこれしき!』


ダゴンは自身が膾斬りなますぎりにされようがお構いなしに勇者ラバンスに斬りかかる。

しかしラバンスに剣が届かない!

ダメージを与えられない!


ザザンツ!


『ぐううぅぅぅ……』


即座に回復するとは言え、勇者の一撃は一瞬で意識を刈り取るに十分な激痛を走らせる。

しかしダゴンは激痛に耐えながら剣を振るう。

マークス達の仇を討つために必死で剣を振るう!

しかし剣を振った分だけ反撃され、ダゴンは深く斬り刻まれる。

それでもダゴンは戦い続ける!



「なんて執念。でも、あのダゴンがまるで相手にならないなんて……やはり本物の勇者は桁が違うわ」

「ああ。だがそれもそろそろ終わりのようだな。見ろ」


戦いを傍観していた大賢者バンバラと魔法剣士ガンツだが、戦いの空気が変化したのを感じた。



勇者わたしの斬撃を何度も受けてなおも戦い続けるとは大したものだ。その強さと執念は認めよう。だが無意味な抵抗はもうやめろ。そうすればすぐに苦痛から解放して楽に殺してやる。どうだ?」


ラバンスは無表情でダゴンに問うた。

しかしラバンスの問いにダゴンは眉間にシワを寄せる。


『思い上がるな女神の犬女神の使徒め! その上からの物言いは本当に反吐が出る!』


バシュッ!


火に油を注ぐようなラバンスの言いぐさに、ダゴンは剣で返答した。


「そう……あくまで抵抗するのね」

「では仕方がない。残念だがダゴンよ。抵抗するなら楽には死ねないぞ」


ラバンスはそう言ってすぐ攻勢に出た。

カロンも【聖女の歌】を奏でラバンスを強化。


ピカッ! ゴロゴロゴロゴロ…… バリバリバリドッシャーン!


俄に暗雲が広がり雷がダゴン目掛けて落ちる!


『聖女の祝福うたが込められた勇者の雷撃魔法か! だが耐えて見せる!』


ダゴンは竜族の対魔法結界を強く張り対応しようとした……が。


ガラガラドゴーン!


『ぐおおおおおおおおおお!』


しかし勇者の雷撃魔法ライディーンは結界を破壊してダゴンにダメージを与えた。

体表は激しい電気火傷を負い、体内では毛細血管が全て破裂した!

さらに、


勇者の雷斬ジゴブレイク!」


ガラガラガラ……ズザーン!


『ぬおっ!?』


ラバンスはバリバリと聖剣に雷を纏い、瀕死のダゴンを斬り刻んでいく。

そして刻まれた傷口が雷で弾け飛ぶ。

勇者の剣技と魔法の前にダゴンは成す術もない。

やがて……


『はぁ、はぁ……』


アパーカレスの加護を受け超回復していたダゴンであったが、とうとうダメージに回復が追い付かなくなった。

全身の至る所が千切れ、弾け、焦げ、欠損し、身体を動かす事すらままならない。


『ううぅ……』


地に膝を付き、いよいよダゴンの最期が近づいた。

だが――


『くふふふ…… やはり俺の力では本物の勇者真正勇者には遠く及ばぬか。だがまだ終わらぬ!』


ダゴンは悔しそうに不敵な笑みを浮かべた。そののちギロリと勇者ラバンスを、そしてラバンスの後ろにいる聖女カロンを睨んで怒気を発した。


しかしラバンスはダゴンの怒気に臆する事なく少し距離を取り、巨大な聖剣にミチミチと膨大な魔力を込めた。


「ダゴンよ、出来る事なら冥界にて魂を浄化されるがいい。超・勇者の雷斬ジゴブレイク!」


勇者ラバンスは聖剣を振り降ろした!

勇者の魔力が十分に込められた雷斬撃の波動が衝撃波を発してダゴンの命を刈り取ろうとする。


『ふふん……』


刹那、ダゴンは血走った目でニヤリと笑みを浮かべた。


バシュッ! ガッ!


「むっ!?」


しかしラバンス渾身の一撃がダゴンに届くことは無かった。

何故ならば、ラバンスの放った雷斬撃の波動は突如割って入って来た【邪竜の剣】によって掃われ阻まれたからだ。

そして【邪竜の剣】を持つ者の正体は……


『ダゴン様、あまり無理をなさるな。このまま呼んで貰えないのかとハラハラしましたぞ!』

『すまぬ。我が手で奴らに一太刀浴びせたかったのだが力及ばずだ。悔しいが俺ではまるで歯が立たん。後は頼むぞ』

『御意。さあ女神の使徒共よ。ここからは我が相手になろう!』


ダゴンとラバンスの間に割って入った者。

その正体は人型に変化した邪竜アパーカレスだった。



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近況ノートに雑文あり

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【追放した側のファンタジー・英雄ケンツの復活譚】 ショーイチ @mrsyo

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