茶番の後書き閑話(【追放した側のファンタジー・英雄ケンツの復活譚】167部分用)
内容のペラくメタい閑話です。読み飛ばし推奨。
【作者に【真実の愛】を押し付けられて愛する女を寝取られる話/異世界恋愛脳内プロット版】
人物説明
【ケンツ】
本編の主役。
この閑話ではナンチャラ王国の悪役王太子。
【シャロン】
本編のヒロイン。
この閑話では侯爵家令嬢。しかも聖女。
【ベラ】
本編ででは素行の悪いギルド受付嬢。
この閑話でもギルド受付嬢。
【バーク】
本編ではケンツのライバル。
この閑話でもケンツのライバルでカンチャラ帝国の皇太子。
【アパーカレス】
本編ではバークに憑りついた邪竜。
【魔王】
本編未登場。
大聖女に恨みを持つ世界を滅ぼす悪い魔王。
ここはとある王宮の大広間で行われている王太子主催の夜会。
物語はここから始まる。
「おいシャロン。おまえとの婚約を破棄する! 異論は認めない」
王太子のケンツは檀上から婚約者である公爵家令嬢シャロンに婚約破棄を言い渡した!
突然のことにシャロンは激しく動揺した。
しかし動揺する理由は婚約を破棄されたせいではない。
「え、ちょっと待ってよ。このシチュエーションは一体何なの? 私達、さっきアリサさんにハンマーで頭を潰されて……は、まさかこれが異世界転生ってやつ!?」
「異世界転生じゃないんだぜ。それがよう、作者のやついまさら婚約破棄系異世界恋愛に嵌りやがったんだ。そんで今は脳内でフワッとしたプロットを考えて俺達にあてがったみたいだ。で、俺は王太子役でこれは最初のイベントなんだぜ」
ケンツは申し訳なさそうにシャロンに言った。
「婚約破棄? 本当に今更ね。わかった。じゃあ適当に合わせてと…… こほん、ケンツ殿下、これは一体どういう事でしょうか。理由をおっしゃっていただかないことには納得できません」
シャロンはすました顔で聞き返した。
中々の演技力である。
「(パターン的には私がケンツの浮気相手をイジメたと冤罪をかけられる? もしくは真実の愛がナンチャラってパターンよね)」
シャロンはケンツの次のセリフを待つ。
「シャロン。俺……じゃない。僕は『真実の愛』を見つけたんだ。だから婚約破棄させてもらう」
ケンツは血の涙を流しながら理由を告げた。
例え茶番であってもシャロンと別れるのは嫌すぎる。悔しさで血の涙が止まらない。
しかしシャロンは至って冷静だ。
「ああ、そっちのパターンかぁ」と思いながらシレッとした顔で役を演じ続ける。
「ケンツ殿下。その『真実の愛』とはいったい何でございましょう?」
「ふ……真実の愛は真実の愛だよ。僕は冒険所ギルド受付のベラ嬢と結婚する…………て、ベラだって!?」
ケンツは自分のセリフに驚き、ついで嫌そうに顔を歪める。
ド底辺時代に「ゴミめ、ぺっ」と罵られながら唾をかけられた記憶がまざまざと脳裏に浮かんだ。
「いやいや、さすがに王太子が素行の悪いギルド受付嬢相手に『真実の愛』は無いぜ! しかもベラとか国が滅んじまうぜ! だいたい俺からすればベラは『真実の|愛《あい》』じゃなくて『積年の|恨《うらみ》』だぜ!」
「でもシナリオとしてはアリだわ。王太子が平民の娘にうつつを抜かして国を亡ぼすのは定番中の定番よ。それよりケンツ。さっさと役を演じきって終わりにしましょう」
「それでもシャロンと別れてベラとくっ付くのは嫌なんだぜ!」
ケンツは駄々をこねた。
そこにベラが現れた。
「私だって嫌ですよ! どうせ最後は断罪されちゃうんでしょ? ほんと勘弁してほしい」
不満そうな顔をしながらベラは言う。
それをシャロンが宥めた。
「でも役を演じ切らないと終わらないのだから我慢してください」
「まったく、なんで私が|ゴミ《ケンツ》の嫁役なんかに………… ほら、ケンツさんも我慢して続けて下さい!」
ベラはブツブツ文句を垂れつつも役を演じ始めた。
「シャロン様。私とケンツ様は真実の愛で結ばれているのです。どうか大人しく身を引いて下さい」
ベラは目の光を失いながら棒読みでシャロンに迫った。
「かしこまりました。私は潔く身を引きます。ベラさん。どうか殿下とお幸せに」
シャロンは二人にカーテシーをしてから踵を返し、その場を去ろうとした。
しかしケンツが慌ててシャロンに駆け寄り手を握って引き留める。
「シャロン、そんな簡単に諦めないでくれよぅ……」
ケンツは怯えた子犬の様な目でシャロンに訴えた。
しかしシャロンは冷たく言い放つ。
「ダメよケンツ。とりあえずイベント済ませないと。どうせ作者はストーリーとかフワっとしか考えていないハズ。だからこのイベントを終わらせれば次のシーンに移行出来ずに強制終了するわ。そのために役に徹するのよ!」
「ぐぅ……わかったぜ。でもそのフワッとしたストーリーが気になるぜ。仮に話が続いたとしてエンディングはシャロンと再構築できなきゃ絶対嫌だぜ」
ケンツはこのままシャロンと永遠の別れになるのではないかと不安になった。
「私、ストーリーの概要知ってますよ。えっと確か……」
ベラがしゃしゃり出てきてペラペラしゃべり出した。
「ケンツさんに婚約破棄されたあと、【完璧な聖女】の公爵令嬢シャロンさんは、隣国の皇太子バークさんに見初められて婚約するのです」
「ちっ、やっぱり相手役はバークかよ」
「完璧な聖女……どこかで聞いたような」
「隣国に渡ったシャロンさんは、それから【聖女の証である百合の花】を咲かせて真の聖女であることを国民に認められるのです」
「おい、パクり方が露骨すぎるぞ!」
「せめて百合を違うお花を変えないと怒られるわ」
「作者は『脳内の習作だから問題無い』とか言ってましたよ」
「いやいや。それにしても色々混ざってんぞ」
「もっと自分で考えなきゃ」
「続けます。しかもシャロンさんが実は伝説の大聖女の生まれ変わりであることが発覚します。国民は大喜びして子供達が【海洋生物の踊り】を披露するなど大宴会!」
「海洋生物?」
「この辺は【転生した大聖女は……】みたいね」
「そして話はクライマックスに。大聖女復活に気づいた魔王が攻めて来るのですが、大聖女のシャロンさんと竜騎士となったバークさんが伝説の力を発動して聖竜アパーカレスを召喚! 見事魔王を撃退します」
「面白くもねえ。なんでバークが活躍してんだ」
「アパーカレスが聖竜……」
「こうして国難を乗り越えたバークさんとシャロンさんでしたが、その一方でケンツさんの国は大聖女の加護が無くなったため崩壊します。しかしケンツさんは何故かバークさんに逆恨みしてシャロンさんを誘拐しようとするのです。が、ケンツさんはあっさり捕縛されます。ちなみに誘拐を立案した私も捕縛されます」
「なんで俺がこんな目に……」
「ケンツ、最初に私と婚約破棄した時点でこの路線は仕方がないわ」
「それからなんかこういい感じで甘ったるく話が進み、シャロンさんとバークさんの“濃ゆい濡れ場”が10万字ほど続きます」
「バークとシャロンの濡れ場に10万文字!? ふざけるな!」
「大丈夫よケンツ。身体はバークさんでも心はケンツだから!」
「そんな浮気した女の常套句みたいな言葉、聞きたくないぜ!」
「ラストはケンツさんと私が断頭台に送られ仲良く首ちょんぱ。バークさんとシャロンさんの結婚式でハッピーエンドとなります」
「どこがハッピーエンドなんだぜ! 思いっきりバッドエンドじゃねーか!」
「うーん。私は大聖女で皇太子妃で国を救ったヒロインかぁ……そう悪くないわね」
「シャロン!?」
「やっぱりケンツさんの嫁役とかロクなもんじゃないですね。とりあえずチャチャっと終わらせて下さい。作者は次のシーンは考えていないようなので、さっきシャロンさんが言った通り強制終了ですよ」
「ほんとか? 本当に強制終了なんだな? いきなり濡れ場シーンに飛んだりしないだろうな?」
「ケンツ。今はこの冒頭シーンを終わらせる事を考えましょう。もし次のシーンに飛んだらその時に考えればいいわ」
「お、おう……」
ケンツは渋々ゆるりとシャロンから手を離した。
その瞬間、ケンツの意識は深い闇へと落ちた。
……………………
………………
………
……
「うーん。ここは何処だぜ? なんだ? 手と首が固定されていて動かねえぞ!?」
気が付くとケンツはうつ伏せに固定されていた。
ガタガタと身体を揺さぶるがビクともしない。
「あ、ケンツさん。目が覚めましたか」
「ベラか? て、おま、その恰好!?」
横を向いてベラの姿を見てケンツは驚いた。
ベラは断頭台にガッチリ固定されている。
「てことは、俺もかよ!?」
ケンツとベラは仲良く並んで|断頭台《ギロチン》にかけられていた。
周囲には大勢の|民衆《野次馬》達。
離れた場所の特別席ではバークと仲睦まじく寄り添うシャロンの姿が。
どうやらここは公開処刑場のようだ。
「おいベラ。強制終了するんじゃなかったのよ。なんでラストシーンに飛んでいるんだ!」
「未熟な作家あるあるですね。冒頭シーンとラストシーンだけシッカリ構想されていると言う……」
「なんてこったい!」
「でもケンツさん。私達の死はきっとバークさんとシャロンさんの結婚式に華を添えることでしょう。|無駄死《むだじに》にはなりません」
「無駄死にの方がましだぜ! ああシャロンがあんな蕩けた雌顔をバークに向けて……」
「このシーンの前は10万文字分の濡れ場でしたからね。流石のシャロンさんも価値観を変えられてしまったのでしょう。なんせ10万文字ですから」
「バカ野郎! 俺ですらまだシャロンとの甘い濡れ場とか描写ないのに、バークなんかと10万文字の如何わしい行為を!? シャロン! 目を覚ませ! 正気に戻れ! シャロン! シャローン!」
その時、ケンツの想いが通じたのかシャロンはケンツの方を向いた。
「シャロン!」
シャロンと目が合い喜ぶケンツ。
しかしその喜びはすぐに絶望へとすり替わった。
―ぷい
シャロンはケンツに対し、「これから屠殺場に送られる可哀想なブタ」を憐れむ程度の同情をしただけで、すぐにバークに蕩けた顔を向けてしまったのだ。
「ああ、ダメですね。シャロンさんにとってケンツさんはすでに過去の人のようです。やはり10万文字分のアレな行為には勝てませんね」
「ちくしょう! バーク殺す! 作者も殺す! 絶対に殺す!」
ゴーン……
断頭合図の鐘が響く。
「いよいよですね。ケンツさんお先に失礼」
断頭台の刃が落ち、ベラの首がゴロリと地面に転がった。
同時にどっと民衆の歓声が沸き上がる。
「くぅっ、次は俺の番かよ……」
ケンツは圧殺してくるような歓声から逃れようと必死で藻掻く!
断頭台から逃れようと藻掻く!
グネグネ、ウニウニと身体を捩じらせ抵抗を試みる!
しかし固定された首と手首はビクとも動かない!
ゴーン……
再び断頭合図の鐘が響く。
ケンツは身体をビクリとさせた。
逃れようのない絶対の死、絶死がケンツに迫る!
「いやだあああああああ! 死にたくねええええええええ! こんな結末あんまりだああああああ!」
しかし無情にも断頭台の刃は落ちてしまった!
「ぎゃあああああああああああああ!」
ザクンッ!
天と地がグルグルまわり、ケンツの首はゴロリと地に落ちた。
………………………………
………………………
………………
………
「………………ああああああああああああああああ!」
「ケンツ! ケンツ!」
「ああああああああああ…… て、あれ? ここは何処だ?」
確かに首を斬り落とされたケンツだったが、地に落ちた瞬間に景色が変わった!
「なんだ? ここは何処だ?」
「何処ってここは私達が借りている借家じゃないの。 随分と|魘《うな》されていたけど怖い夢でも見たの?」
「シャロン! おめーバークの|皇太子妃《嫁》になったんじゃ…… 借家? 夢? ああそうか。全部夢だったんだな。はぁ、よかったぜ……」
ケンツはベッドの上で身体をグニグニさせながら夢に|魘《うな》されていたのだ。そして全てが丸ごと夢だったことに安堵して深い溜息をつく。
「ん?」
何やら料理のいい臭いがする。どうやらシャロンは夕食の準備をしていたようだ。
「いったいどんな夢を見たの?」
「それがよう、みんなして異世界恋愛の世界に放り込まれてよう、真実の愛がどうのこうの、婚約破棄がどうのこうのってなって、それに……」
「それに10万文字の濡れ場がどうのこうの……とか?」
「そうそう。10万文字の濡れ場………… え、シャロン。なんでそれをおまえが知っているんだ? 夢じゃなかったのか?」
悪戯っぽく笑みを浮かべるシャロン。
ケンツの背筋が凍りつく。
「なあシャロン。まさか10万文字分バークと……」
「何の事? それよりケンツ。夕食も出来たことだし冷めないうちにいただきましょう」
「お、おう……」
ケンツとシャロンは食卓を囲んだ
「今日解体されたばかりの新鮮なブタ肉料理よ。うん、美味しい!」
「|解体《屠殺》された豚肉ねぇ……」
ケンツは夢のラストシーンでシャロンが一瞬自分に向けた【同情の眼差し】を思い出しながら、モヤモヤと豚肉料理を口に運ぶのだった。
end