茶番の閑話(【追放した側のファンタジー・英雄ケンツの復活譚】164部分用)
くっだらない内容の閑話です。
読み飛ばし推奨。ちなみにバッドエンドです。
【タイムリープ】
『くくく……|我《われ》からのささやかな贈り物は気に入って貰えたかな?』
ふいに暗雲が広がり辺りが暗くなり、恐ろしくドスの効いた低い声が大会議室に響いた。
「い、今のはなんじゃ? 一体誰の声じゃ!?」
驚く国王達を嘲笑いつつ、声は響き続ける。
『我は復讐の邪竜、アパーカレス。人族に真実と絶望を、そして滅びを与えるものにゃり』
「にゃり!?」
「おい、なんか噛んだぞ」
「もしかして子供の悪戯か?」
ざわざわとどよめく大会議室。
一方遠く離れたダゴンの旧家では、耳たぶまで顔を真赤にして手で顔を覆うアパーカレスと、それを慰めるダゴンの姿があった。
アパーカレスはここから念波を送り話しかけていたのだ。
だがしかし、何度もリハーサルをしたのにもかかわらず、邪竜アパーカレスは本番で噛んでしまった。
『ダゴンさま、すみません! 頑張って練習したのにいきなり噛んでしまいました。この後どうしましょう……』
アパーカレスは目に涙を溜めてオロオロと狼狽した。
『だ、大丈夫だ。俺は邪竜族となって新たな能力を得たのだ』
『新たな能力ですと!? それはいったい……』
『ふふふ、聞いて驚け。ティラム世界の|理《ことわり》を覆す大魔法。|時間跳躍《タイムリープ》だ!』
『なんと! そんなことが可能なのですか!?』
『ああ。ただこれは生涯で三回しか使えぬ。しかし物事は最初が肝心だからな。使うぞ、|時間跳躍《タイムリープ》!』
『うわああああああああああああ!』
ダゴンとアパーカレスは約三分前に戻った。
『おお、三分前の世界だ!』
『よしいけ!』
『はい! 我は復讐の邪竜、アパーカレス。人族に真実と絶望を、そして滅びを与えるものなり』
邪竜アパーカレスは、流暢な言葉で話しを続ける。
『よし、いいぞ! そのまま、そのままいけ!』
『まずは貴様達の罪……200年前の惨劇をご覧頂こう。〈ドラゴ|メモリ《記憶》・|ビジョン《投影》〉!』
大会議室の水晶玉から上に向かって映像が流れた。
しかしそれは残虐シーンではなく……
『マイン、大事な話しがあるんだ』
『どうしたのアーク?』
『俺、ずっと前からマインの事が…………す……す……』
『え? す? はっ、まさか! 私の事を……』
『す………すすすすす……すーーーーー!!!』
『アーク、頑張って! 私の事がなんなの!?』
『すすすすす……スイカップだよね。マインは』
『はい? …… バカ! アークのヘタレ! 誰がスイカップよ! もう知らない!』
『あ、ちょっと待って! マイン! マイーン! わーん!』
アークはorzスタイルで泣きくずれた。
「なんだこの映像は?」
「俺達は何を見せられているんだ?」
「青春だなぁ」
大会議室はまたしてもどよめいた。
『アパーカレスよ……』
『すみません。間違えてアーク君の青春の記憶を流してしまいました』
『いや、いいんだ。それにしても我が息子ながら情けない……俺がセレナに告白した時は、もっと堂々と告白したぞ』
『それよりどうしましょう』
『当然やり直しだ! |時間跳躍《タイムリープ》!』
ダゴンとアパーカレスはまた約三分前に戻った。
「ぐぬぬ……騙されるでないぞ、全て偽りじゃ!」
『ふふん。ぬかすなリットールの王よ。これはおまえ達人族が犯した卑劣極まりない虐殺行為ではないか。リットール全ての民が背負いし業だ! おまえ達の本質だ! そして200年経ってなお、おまえ達人族の本質は何も変わっておらぬ。その事は身をもって確認させて貰ったぞ』
アパーカレスは難関である尺の長い部分をクリアした!
『よしいいぞ。あと少しだ。頑張れアパーカレス!』
『はい、頑張ります!…………あ 』
『 あ 』
「頑張るだと?」
「何を頑張るんだ?」
「これってやっぱり悪戯なんじゃねーか?」
またまたしても大会議室がざわめく。
アパーカレス、痛恨のミス!
うっかりダゴンに返事をしてしまう!
“頑張ります!”がそのまま念波で送信されてしまった。
『すみません! すみません! すみません!』
『いやまあ、ミスは誰でもあるから……しかしあと一回か。もうミスは許されん』
『うう……私が完全体だったらこんなミスなどしないものを……』
『どんまい。次行くぞ。|時間跳躍《タイムリープ》!』
三度目の正直。
ダゴンとアパーカレスはまたまたまたしても三分前の世界へ!
そして映像を流すのもクリアしていよいよ長尺セリフ。
『ふふん。ぬかすなリットールの王よ。これはおまえ達人族が犯した卑劣極まりない虐殺行為ではないか。リットール全ての民が背負いし業だ! おまえ達の本質だ! そして200年経ってなお、おまえ達人族の本質は何も変わっておらぬ。その事は身をもって確認させて貰ったぞ』
それも無事クリア!
『(よし、いいぞ! 頑張れアパーカレス!)』
ダゴンは心の中で応援した。
知らぬうちに拳を強く握りしめる。
『存在自体が絶対悪である人族よ。今度は貴様達が裁かれる番だ。有罪にして死刑! だがせめてもの情けだ。生きる者の務めとしてせいぜい抗ってみせよ! そして絶望に身を捩るがよい! ふはははははは!』
アパーカレスはついに全セリフを言い終えた!
『やった! ちゃんと言い終えました!』
『はっはっはっ。アパーカレスは出来る子だと信じておったよ』
『でも、一時はどうなるかと思いましたよ』
『実は俺もドキドキしていたぞ』
『ところで……』
『 ん? 』
『|時間跳躍《タイムリープ》が可能なら、200年前に戻って|自由竜族自治領《ドラゴンドミニオン》滅亡を阻止した方が良かったのでは?』
『 え 』
その日、ダゴンは人生で一番後悔した。
- Bad end –
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……
「うわあああああああああああ! ……… はっ!」
テーブルにうつ伏せうたた寝をしていたダゴンはハッと目を覚ました。
「ダゴンさま、どうされました? 酷く魘されていたようですが……」
「悪夢を見ていたようだ」
「悪夢? どのような?」
「うーむ、それがさっぱり思い出せん」
「そうですか。それより我が眷属となった王宮の侍従より報告が入りました。これより大会議が始まるそうです」
「そうか。いよいよ本番だな。ん? 緊張しておるのか?」
「はい。少々……何しろ映像越しとは言え大勢の人前で話すのは初めてですので」
「ははは。心配するな。あれだけリハーサルしたんだ。大丈夫だ!」
「はい!」
そして邪竜アパーカレスはリットール王宮会議室に設置された水晶玉に自信を持って念波を送る。
その結果は――
『我は復讐の邪竜、アパーカレス。人族に真実と絶望を、そして滅びを与えるものにゃり!』
「「「「「 にゃり!? 」」」」」
以下無限ループ♪