茶番の閑話(【追放した側のファンタジー・英雄ケンツの復活譚】165部分用)
内容のペラい閑話です。読み飛ばし推奨。
今回はバロンとブルーノの話。
【日本の夏】
「やってられるか、こんちくしょー!」
「俺達は逃亡するぜ!」
更生プログラムにて数々のイベントをこなしている(リタイアしまくっている)バロンとブルーノだが、【火山のマグマドラゴン生態調査】にて|炎の息《ファイヤーブレス》を喰らい|大火傷《おおやけど》を負ってしまう。
支給されているポーション(有料)を全部飲み干し一命は取り留めたものの、嫌気がさしてとうとう更生プログラムをほっぽり出してしまった。
しかしマグマドラゴン支配領域は広く、領域内は灼熱地帯である。
「暑い……この暑さ、どうなってんだ?」
「マジで死ぬぜ……誰か水をくれ……」
マグマドラゴンとの戦闘によりほとんどの物資を失い、そのうえ灼熱地帯を抜けるには2日の距離を要する。
二人はとうとう行き倒れてしまった。
「ちくしょう、俺達こんなところで死ぬのか……」
「どうせ死ぬなら召喚者達の世界に転生したいぜ。海に囲まれた緑豊で水の豊富な世界……」
遠のく意識……
ブンッ! ブンッ!
上空では【死神の使いアキム】が鎌を素振りして命を刈り取るウォーミングアップをしている。
死が近い二人はアキムの姿がぼんやりと目に映り恐怖した。
「頼む、女神様……」
「死んだら召喚者達の異世界に……」
そんなうわ言を言う二人になんと奇跡が起こった!
『その願い、叶えましょう』
「お、女の声!?」
「だ、誰だ!?」
突如当たりが神気に包まれ、次元を超越する美貌の女神が現れた!
「あんたは……いや、あなた様は!?」
「まさか女神様!?」
『私はこのティラム世界の主神にして慈愛の女神セフィース。転生などと言わず今すぐその身体ごとアース世界に転移してさしあげましょう』
「セ、セフィース様!? 本当ですか!?」
「やった、助かったぜ! ありがとうございます!」
『さあ、行きなさい。アース世界の日本へ!』
ギュイイイイイイイイイイイイイイイイイン!
セフィースの神気に包まれ、二人はアース世界日本国に転移した。
しかしそこは……
「ぎゃああああああああ、なんだこの世界は!?」
「暑い! 死ぬほど暑いぞ! なんだこの気温は!? 熱波は!?」
「あぢぢぢぢぢ! しかも地面が真っ黒に焼けているじゃねーか!」
「どこが海に囲まれた緑豊かな水の豊富な世界なんだよ!」
「灰色の壁に覆われて景色が何にも見えねえ!」
「身体が焼ける! 死ぬ! 死んでしまう!」
二人が転移したのは間違いなくアース世界日本国。しかし着地したのは名神高速桂川パーキングエリア近くの高速道路上!
そして今は8月で気温40度を超える夏日!
真っ黒に焼かれた地面とは、日光に焼かれたアスファルトの道路の事だ。
そして高速道路である以上を多くの自動車が走っている訳で…………
ブオンッ! パパパー!
けたたましいクラクションを鳴らして猛スピードで迫る自動車!
「なんだこの爆走する鉄の箱は!」
「あぶねえ! ぶつかる!」
バロンとブルーノは迫りくる自動車を必死で避ける!
しかしここに着いた時点で体力を消耗していた二人の動きは鈍い。
やがて。
キキキー! ドカーン!
「ぎゃあああああああああああああああああ!」
「うぎゃああああああああああああああああ!」
二人は8tトラックにひかれてしまった。
***
「おい、起きろ」
バロンとブルーノは頬をペシペシと叩かれ目を覚ました。
「う……なんだ……て、おまえはケンツ! なんでここにいる!」
「俺達、たしか異世界転移して召喚者の世界に逝ったはずだぜ!」
バロンとブルーノの前に現れたのはケンツ。
二人はトラックに引かれた衝撃で、お約束の異世界転移で戻って来てしまったらしい。
「オメーら、何言ってんだ? 暑さでボケたか? ほれ、ケイトに頼まれて物資を持ってきたぜ。あんまりサボるんじゃねーぞ」
ケンツは物資の入ったザックを渡すと、呆然とするバロンとブルーノを尻目に空を飛んでさっさと帰ってしまった。
「なあ、あれは夢だったのかなぁ」
「わかんね。でもあんな暑くて危険な世界なら二度と行きたくないぜ」
バロンとブルーノはザックから水筒を取り出し一気飲みした。
そして諦めて次の更生プログラム先にトボトボと向かったのだった。
日本の夏。
それはどんな異世界よりも過酷な世界。
暑中お見舞い申し上げます。