茶番の閑話(【追放した側のファンタジー・英雄ケンツの復活譚】166部分用)
内容の薄い閑話です。
読み飛ばし推奨。
なお、この近況ノートは2023年8月31日に執筆しました。
【最後の日】
登場人物
ユーシス(ユリウス)
真正勇者。アリサの幼馴染にして婚約者。
アリサ
真正聖女。ユーシスの幼馴染にして婚約者。
西城祐樹(サイジョウヒロキ)
召喚勇者。朱里の幼馴染にして恋人。
松本朱里(マツモトアカリ)
召喚聖女。祐樹の幼馴染にして恋人。
「うう、なんだかさっきから嫌な気を感じるわ。物凄い【負の感情】の渦……」
旅の途中、馬上で|真正《野良》聖女アリサは遥か遠くから子供達の阿鼻叫喚する気配を感じ取りモヤモヤとしていた。
「アリサも感じるの? 実は私もさっきからそうなの」
一緒に旅を続ける仲間の一人、召喚聖女|朱里《アカリ》も暗い顔をしていた。
「大丈夫なのかアリサ、|朱里《アカリ》」
「ユーシス(ユリウス)、ちょっと早いが野営準備にしよう。本当に気分が悪そうだ」
やはり仲間の召喚勇者|祐樹《ヒロキ》がユーシスに言った。
ユーシス、アリサ、|祐樹《ヒロキ》、|朱里《アカリ》の四人は、大きな湖の湖畔で下馬し、野営準備に入った。
「どうだ、落ち着いたか?」
「何か思い当たる事は何かないのか?」
ユーシスと祐樹は心配そうに二人の聖女を気遣った。
しかし聖女達は首を振った。
聖女の感受性は高い。【負の感情】を敏感に感じ取ってしまう。
聖女達は大勢の【子供達の負の感情】を感じ取り、感情酔いを起こしているのだ。
「大丈夫、死ぬほどってわけじゃないんだけど……この【負の感情の渦】はどこから来ているのかしら」
アリサは首を傾げる。
「私もわからない。でも数日前から感じてはいたの。だけど今日は特に凄くって……でも、どこか懐かしい【負の感情】だわ」
一方朱里は既視感のようなものを感じた。
気分悪そうな二人だが、どうやら命の危険性は無さそうだ。
「一体どんな感じなんだ?」
「どんなって……こんな感じだけど……」
アリサはユーシスの胸に手を当て、負の感情の渦を流し込んだ!
「うわっ! なんだこの絶望と焦燥の感情は!? 何万いや何十万いやいやそれ以上の子供達の阿鼻叫喚の声が流れて来たぞ!?」
瞬時に負の感情に押しつぶされそうになるユーシス。
「子供達の絶望と焦燥感だって? 大変だ、なんとか助けに行かないと!」
祐樹は何処彼の地で大勢の子供達が苦しんでいると知り、すぐさま助けようと言った。
「あー、うん。でもこの負の感情を放つ子供達は、なぜか助ける気にならないのよね。なぜかしら?」
慈愛の権化のような聖女朱里のらしからぬ言葉。
彼女は困っている人、苦しんでいる人を見かければ、助けずにいられない性分だ。
その朱里が助けずに放置しようとしている。
「朱里、なんだからしくないぞ」
「うーん。この感情は助けるべきじゃないというか、なんだったかなぁ…… ちょっと祐樹にも流してあげる」
そう言って朱里は祐樹の胸に手を当て負の感情の渦を流し込んだ。
「おわ。なんだこりゃ!?」
途端にどろどろとした負の感情で祐樹の胸が一杯になる。
「ひでえ、子供達の阿鼻叫喚、絶望と焦燥感、ユーシスの言った通りじゃないか。ここまで酷い負の感情は初めて………… あれ、でもちょっと待てよ?」
祐樹の歪んだ表情が一瞬で素に戻る。
「俺、この感情知ってるぞ!? 朱里、これはあれだ! 【最後の日】の!」
「え……? 【最後の日】?」
なんと朱里同様祐樹もこの【負の感情】を知っていた!
「おいおい、【最後の日】とかぶっそうだな」
「もしかしてこの負の感情は祐樹と朱里の世界から流れて来たのでは?」
アリサは全神経を集中して【負の感情】の出どころを探った。
「やはりこの負の感情は|二人の召喚元の世界《アース世界》から流れ出ているわね」
「次元を超えて負の感情が流れだして来たのか。いったい向うの世界では何があったんだ!?」
ユーシスとアリサはこの【負の感情】がティラム世界に悪影響を及ぼすことを懸念した。
「ユーシス、アリサ、これはそういうのじゃないんだ。放置して大丈夫だ」
「私も思い出したよ。これは確かに【最後の日】特有のものだわ」
祐樹と朱里は【負の感情】の正体に気付いたらしい。
今は何処か懐かしい表情を浮かべている。
「本当に大丈夫なのか?」
「なんか【最後の日】とか怖いんだけど……」
心配そうなユーシスとアリサ。
その二人に祐樹と朱里は笑顔で言った。
「大丈夫。これは俺達の世界の風物詩みたいなもんだ。こっちの世界には影響ない」
「子供達の試練みたいなものなの」
「そうなのか?」
「本当に影響無いの?」
ユーシスとアリサは食い下がる。
「「ないよ。|異世界《こっちの世界》には夏休みと宿題はないもん」」
「夏休み?」
「宿題?」
今日は8月31日。
ポカンとするユーシスとアリサを他所に、祐樹と朱里は遥か故郷から流れて来る【負の感情】を懐かしく感じながら、夕食の準備を始めたのだった。
了