自らの意思で運命を選択し、そして4人が運命を共にするまでの旅立ちの物語
- ★★ Very Good!!
戦で家族を失った少女『ベル』。最後に残された兄の『アラン』すらも失いそうになった時、偶然に出会ったのは銀色の魔法使い『シャンタル』と、同行者の傭兵『トーヤ』だった。傷を癒しつつ4人が交流していく中で、ベルとアランの兄妹は己が進むべき道や運命を、自ら選ぶ時が近付く――。
『黒のシャンタル』シリーズの外伝作品ですが、本編開始前の前日譚ということで、ひとまず独立した物語としての感想をお送りします。
まず非常に読みやすく、テンポの良い文章でした。それでいてこの世界の文化(飲食や入浴や治療など)がリアリティをもって表現されていて、最小限の描写で場面を明確に描き出すテクニックは、素晴らしいの一言です。
最後まで疑問に思ったり違和感を持つことなく、スムーズに読み進められました。そうした内容にするのは、基本的なことでありながら小説において重要なポイントです。それを為し遂げているのは、実にお見事でした。
そしてそれはキャラクター像においても同じことが言え、ベルやアラン、シャンタルやトーヤはそれぞれ個性があって魅力的だと感じました。
ちょっとした台詞や行動だけでも人柄が垣間見え、中編の内容でありながら彼ら4人に愛着や興味を持つことができました。これも簡単なように見えて、高度なテクニックがないと難しい離れ業です。
全体的に丁寧さや優しさに満ちており、この作品を読んで興味関心を持った人には、是非とも本編を読んで頂きたい。本編への誘導として、合格点の『エピソード0』だったと思います。
ただあえて指摘点を挙げるとするのなら、旅立ちの物語としては印象的なドラマや大きな見せ場がなく、そこが惜しいかなと感じました。
丁寧なのは良いことですが、逆を言えば地味で平坦な内容です。アランが傷を癒し、ベルと共に覚悟を問われ、そして仲間になる。兄妹の内面はシッカリと描かれていましたが、テーブルで向き合って話し合って「じゃあ仲間ね」というのは、人生を変えるほどの劇的な出会いや、壮大な旅立ちとまでは言えません。
作風の問題もあるとは思います。ですが何か大きな事件や山場を4人で乗り越えた末に、それぞれの必要性を実感して仲間になる流れの方が、『小説』としては自然だと感じました。
とはいえ、文章やキャラクターが魅力的なのは間違いないです。シャンタルの秘密や、今後の4人の冒険や行く末など、非常に興味や関心が持てる内容でした。