砂漠の姫

タラゴン

序章

僕の名前はキネ・ロダト。

僕の操縦していた飛行機は墜落した。コックピットに座っていた僕は自分の飛行機が落ちるなんて夢にも思わなかった。

本部からの通信も途絶えたのは絶望的だった。

飛行機が墜落したのは砂漠のど真ん中だ。

『キネ・ロダト、応答セヨ』

無機質な声が頭の中で響く。

飛行機が着陸態勢に入っていたのは事実だ。

この広大な砂漠の中には滑走路なるものが存在しない。

少年パイロットの僕に出来ることはもうない。

大人しく砂漠のど真ん中で誰かが来るのを待つのみ、だ。

僕に両親はいない。友人のマイク・レオーネの救援を待つか。

フェネックという砂漠の狐に出会ったのは飛行機が墜落してから2日後のことだ。フェネックはキツネ類のうちペットとしてかなりの数が飼育されているらしい。それは僕の生きる24世紀の時代でもフェネックは人気なのだ。

砂漠の夜は冷たい。乾燥して雲も少なく夜間の放射冷却が激しい砂漠では、夜になると冷えるため、1日の寒暖差は20度以上にも達する。

僕は靴を脱いで裸足になり、機内から出た。

寝袋と毛布と僅かな食料だけを飛行機の機内から出るときに持ち出した。

機内から出ると2日前の昼に出会ったフェネックとまた相まみえた。

フェネックは興味津々で僕の寝袋を見つめる。

僕はただ呆然とフェネックを観察していただけだ。

しばらくしてからフェネックは砂漠の向こうへと去っていった。

(砂漠に棲むキツネか…)

サソリに刺されなければ夜はぐっすり眠れる。

前世紀のスマホより進化した多機能ウォッチはメールも送れるし、ネットも見れるので便利だ。

腕時計型の多機能ウォッチは既に普及されている。

機能面では、防水やワークアウト計測、心電図測定・血中酸素濃度測定機能など全方位で充実している。

アラームを設定してから寝ようかな、と僕は思った。

故障した飛行機で寝るのは絶望的だ。

この砂漠ではネットも繋がらず、圏外と表示される。

最初は通信障害かと思っていたが、案の定エラーと出てきた。

これではマイクに電話が出来ない。

(まだ希望はあるかもしれない…)

普段から多機能ウォッチを充電しながら使用していたせいか充電しているのに減るという事故まで起きた。

多機能ウォッチの寿命を縮めるとはなんて愚かなことをしたのか。

僕は自分を責めた。





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