みずみずしさと鼻を摘まむような腐敗の両立

 それは豊かな苦悩の濁流です。
 世界を見つめる瞳は疲弊し澱み、決定的な破局を迎えることもなくぐずぐずと饐えていく彼の生活を写し取ります。
 つまりは表現がとてもいいのですよね。
 読み手が気を抜いた瞬間にクリティカルヒットと言った感じの風景描写が覗き、おおーってなってるうちに主人公の男の子のいくつも抱える悩みが流れ込んでくる。
 最後に蜻蛉に語り掛ける主人公。
 それは読者にほのかな希望を感じさせますが、その光はわずかに浮上したばかりで鈍い。
 「とんぼ」っていう平仮名表記にしてあるのがまたエモい。

 「汚い」とは「たくさんあること」なのです。
 みずみずしさと人生の腐敗は矛盾するものではないと示すのがこの作品。
 そこには確かな価値があります。

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