十数年前、エレベーターに閉じ込められていた虫を思い出して……

文学に登場する虫や植物は、かよわい生命体として描かれがちなものなのかもしれません。
この小説を読んでいて、十数年前に市役所のエレベーターの壁に止まっていた「うりは虫」を思い出しました。
こんなところに迷い込み、閉じ込められて、虫にとってはなんの意味もない上下移動をくり返して大丈夫なんだろうか、とか心配になったことをふと、なぜか思い出しました。

日々の生活で次々に襲ってくる不安、不快感。街の風景に、虫の生命に、眼差しをスライドさせて混ぜ合わせる様々な色やイメージ。

一つ一つの段落がどれも濃くて、それでいて断片のように途切れない沈着なトーンがすごく好きでした。

こんな短い作品とは思えない内容だと思います。

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