これはひとつの秘剣を巡る悲劇

伊草忠邦の剣の師であった谷上彦市が斬殺された。それも彦市の跡を継ぎ、刃鳴流剣術道場の主となるはずだった弟、伊草鉦巻の不可思議な剣——蛇のごとくにうねり、防御をすり抜ける秘剣によって。鉦巻は夜の内に国を出ると言い残し、場を後にした。師の仇を討つべく忠邦は弟を追い、そしてついに対峙する。

剣劇です! 時代物で剣術を描いた作品、なかなかに少ないものですが、それを真っ向から描き出している作品なのですよ。

剣士が立ち合う緊迫感をそれぞれの構えの意味から説き、じっくりと対決を見せてくれているのがまず良し。そこへやるせない心情劇を絡ませ、人と人とのドラマへ仕立てているのがさらに良しなのです!

秘剣という要素をただの外連味に落とさない筆の妙と、それを支える物語的な芯の太さがあってこそ醸し出される魅力ですね。そしてその太さこそが、引き起こされる師匠殺しと兄弟対決を鮮やかに照らし出してみせるのです。

後味の悪さまでが極上の、悲哀に飾られた剣の物語。ぜひご一読いただきたく思います。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)