2 初めてのもふもふテイム

 猫カフェに通うことだけが唯一のいやしだった社畜は、異世界でテイマーになって平和にもふもふカフェを経営することを夢見ていた──。

 しかし現実はどうだろうか。

 うっかり、白金色の……二メートルはあるであろう犬のもふもふにテイミングスキルを使ってしまった。

『ワウッ!?』

 いちがテイミングのスキルを使った瞬間、白金色の犬がパチパチするような光に包まれた。きっと、テイミングに成功したという合図なのだろう。


 猫の神様が授けてくれたテイマーのスキル、【テイミング】。

 魔物に対して使うと、自分の従魔にすることができる。成功率は、スキルレベルに比例する。


「……っ」

(はずみでスキルを使っちゃったけど、大丈夫……なのか?)

 自分の前に立つ白金色の犬を見て、ごくりと唾を飲む。

(そういえば、スキルの中に【会話】っていうのがあったはずだ)

 きっと言葉が通じるのだろう。

「あ、あの……」

 おそるおそる白金色の犬に声をかけると、ぎろりとにらまれてしまった。

(ひぇっ! もふもふだけど、さすがに怖いぞ!?)

『お前、勝手にテイムするなんて……!!』

「え、あっ、ごめんなさい……」

『孤高のフェンリルであるオレがテイマーに従えられるなんて、最悪だ!』

(あー! やばい、めちゃくちゃ怒ってる!!)

 そして絶対に自分は嫌われている。

(でも、会話ができてよかった)


 猫の神様が授けてくれたテイマーのスキル、【会話】。

 テイミングした魔物と会話をすることができる。


 そのことに太一がほっとするも、白金色の犬──もといフェンリルは、しゃべり続ける。

『せっかくそうなドラゴンを倒したというのに、お前のせいで気分は最悪だ。しかも人間の主人? 笑わせる!』

「あ、あはは……」

 いつ攻撃されてもおかしくなさそうな状況に、太一は冷や汗をかく。

 テイミングはしてしまったが、特に相手を縛ろうとは思っていない。このまま別れる──というのは、どうだろうか? 駄目だろうか?

 そんなことを考えていたのだが、ふと……気づいてしまった。

(え、ちょ、待って!? フェンリルの尻尾がめっちゃ揺れてるけど!? もふもふだけど!?)

 口ではつんけんしたことを言っているが、よくよく動作を見るとうれしそうだということが読み取れる。

 もしかして嬉しいのだろうかと、太一は首をかしげる。

 そして思い出すのは、自分の職業名だ。

(もふもふに愛されし者……だからか?)

 悪態をつかれてはいるが、自分のことを好意的に見てもらえているのかもしれない。

 そう考えると、テイマーじゃなくない? なんて思ってすみません、最高の職業ですと猫の神様に祈りをささげたくなる。いや、捧げよう。

「猫の神様、この出会いに感謝いたします……」

 このまま一人で森にいたら命の危機なので、仲間がいるのはとても心強い。

「えーっと、もしよければ仲間になってもらえませんか? テイムした後に言う台詞せりふじゃないかもしれないけど」


『なに!? お前ごときが孤高の戦士のオレを仲間にしようというのか!?』

「は、はいっ」

 フェンリルは否定の言葉を口にするが、やっぱりそのもふもふ尻尾は嬉しそうに揺れている。ツンデレさんなのだろうか。

(どうしたら仲間になってくれるかな……)

『……しかしまあ、お前はとても弱そうだからな。オレが一緒にいてやったほうがいいだろう。じゃないと、すぐ魔物に殺されるのがオチだ』

 どう説得するか考えようとしていた矢先に、フェンリルはふんと鼻を鳴らし、仲間になることをあっさり同意してくれた。

(おおおおお、やった!)

「じゃあ、よろしく。俺は……タイチ・アリマだ」

『タイチか。それじゃあ、オレに名前をつけろ』

「え?」

 太一がどういうことだと問い返すと、そんなことも知らないのかとフェンリルにため息をつかれてしまった。

『基本的に、魔物には名前がない。あって呼び名くらいだ。だから、テイマーはテイムした際、魔物に名前をつける。常識だ』

 フェンリルの言葉に、なるほどと太一はうなずく。

 猫の神様にテイマーにしてもらったはいいが、自分の職業のことを詳しく知らなかった。

(街に行ったら、いろいろ調べないといけなさそうだ)

「教えてくれてありがとう。まだ駆け出しのテイマーで、君が俺の仲間一人目なんだ」

 あははと笑いながら言うと、今度はフェンリルが太一のことをいぶかしむように見た。その視線は、まるで太一を品定めするかのようだ。

『なに? てっきり熟練者だと思ったが……まあいい。早く名前をつけろ!』

「わかった、わかったよ」

 フェンリルにかされて、さてどうしようかと悩む。今までペットを飼った経験がないので、名前をつけるということをしたことがないのだ。

(こんなに立派なもふもふなんだ、安易な名前はつけられないぞ)

 それに、孤高の戦士と自分で言ってしまうような相手だ……格好いい名前でなければすねてしまうだろうと確信が持てる。

 うぅぅぅ~んと悩み、ひらめく。


「【ルーク】」


 太一が名前を告げると、フェンリルに光が降り注いだ。

「えっと、ルークっていう言葉には、光とか、そういう意味が含まれてるんだ。すごくれいに輝いてる毛並みだから……どうかな?」

 安易だろうと言われたらそれまでだが、太一も一生懸命考えた。しいフェンリルには、ぴったりだと思う。

 太一の言葉を聞き、フェンリルは首を後ろに向けて自分の尻尾を見つめた。ふりふり振って、その毛並みを確認しているようだ。

(なにそれ、めっちゃ可愛かわいいんですけど!?)

 猫じゃなくても、もふもふ大好きー! と、叫びたい。

『ルーク、ルークか……ふむ、なかなかいいじゃないか! オレのような格好いいフェンリルにピッタリだな!』

 どうやら気に入ってくれたようだ。

「よろしくな、ルーク」

 太一がそう言ってルークの前足に触れると、柔らかなもふもふに手が包まれた。まるで天使の羽にくるまれているような感触に、思わず震えてしまう。

(今までたくさんの猫をもふもふしてきたけど……)

 ここまで最高のもふもふは、初めてかもしれない。

 そのまま優しく前足をでると、ルークは嬉しそうに尻尾を振る。どうやら、撫でられるのが好きらしい。太一はもふもふするのが好きなので、最高のパートナーだ。

 もふもふを堪能するために撫で続けていると、ルークがハッと目を見開く。

『お、おい! いつまでさわってるんだ!! オレは高貴なる伝説の魔物フェンリルだぞ! 人間がそう簡単に触れていい存在ではないというに!!』

「…………」

 気持ちよさそうだったくせに。なんて言ったら。怒りそうだなぁと太一は苦笑する。

 どうやらルークは孤高の戦士でいたいがために、太一とのれ合い、もといスキンシップをよしとしないようだ。

(確かにスキンシップをしたら孤高の戦士ではなくなる……)

 難儀な性格のフェンリルもいたもんだ。


   ~試し読みはここまでとなります。続きは書籍版でお楽しみください!~

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【書籍試し読み版】異世界もふもふカフェ 1 ~テイマー、もふもふフェンリルと出会う~ ぷにちゃん/MFブックス @mfbooks

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