第10話 反逆と襲来
どうする……!? とみにいは立ち尽くしていた。
妹、えりいが監禁されている部屋を特定し、救い出す? いや、それじゃあ繰り返しになるだけだ。また、えりいが連れ去られて、助け出して――それを繰り返す?
相手はパージミックスだ、権力者、王族だ!
ここを突破したところで、ネチネチと嫌がらせをされるだけだろう……。
相手はみにいを社会的に殺すことも可能なのだ。
「……あたしのせいだ……ッ!」
怪獣に乗せられなければ、人間の上に立つ絶対的な権力者に喧嘩、ではないにしても上から目線の説教じみたことをしなければ、こんなことにはならなかった。
自分だけならまだ痛い目を見てもいい……でも、妹は違うだろう……っ。両親を失い、手元に残ったみにいの宝なのだ。たとえ死ななくとも、生き続ける地獄もあるのだと知っている。
妹を、あんなクズ野郎に、傷物にされるのだけは避けなければならない!
「あたしが、怪獣を……」
心臓を持つ個体を特定し、誘き出す……それが妹を救う唯一の条件。
でも、本気で逃げ出した怪獣を捕まえる技術は、みにいにはない。
策を考えるだけで、一時間など経ってしまうだろう……ではどうするか。
残された手は、やはり二つだ。
一つはいま言った、パージミックスに従うこと。
もう一つは、レッドを始末すること……だ。
幸い、みにいの離反を知っているのはレッドだけだ。他のメンバーの反応は知らないが、まだ言葉でなんとかなる気がする……という希望は捨てたくない。
問題はレッドだ。あの頑固さは、たとえどんな条件を出したところで引かないだろう。となると、口も利けないくらいに始末するしかない。……言ってしまえば、殺すしかないのだが――。
それこそ、人間という種族に喧嘩を売る所業ではないか。
「……えりいのためなら」
妹のためなら。
お姉ちゃんは、大犯罪者にだって、なってやる。
「お困りかね、お嬢さん」
道の先、カエル顔でトカゲサイズの怪獣が二足で立っていた。
今回の離反を持ちかけてきたのはあいつである……、もしかしたらこんな状況になることを見越していたのかもしれない……。
「そこまで想像力が豊かなわけじゃないさ。ただ……、もしもどうしようもない状況になった時、アンタはオレを頼ってくれると思った。オレがいなければどうしようもない状況になれば――オレの願いを無下にすることもできないだろう?」
「……願い?」
「責任を持って、オレを地球から脱出させてくれ」
その願いは、地球の情報を他惑星へ持ち帰らせることになる。つまり今後、地球を侵略しにやってくる怪獣が、人間側の情報を持った上でくることになり、シンドロームズだけでなくパージミックスにかかる負担も大きくなるということだが……、
――はっ、知ったことか。
みにいは即決した。
「お前を使えば、パージミックスに勝てるのか?」
「アンタの使い方次第だろ。少なくともオレは、アンタの懐に隠れて、アンタの盾になることくらいはできるけどな」
耳元でアドバイスをすることもできる、とも言った。
「相手はパージミックスだ……あれでも小さな怪獣、と呼ばれているぞ」
「オレもアンタも小さいだろ。小さいことであれば頭一つ、抜き出ているはずだ。オレらの小さいは、恥じることじゃない。
小さいからこそできることがある。小さいからこそ有利に働くことがある。小さいからこそ――救えるものがある」
「小さいからこそ……」
「どうしたミニマムヒーロー、アンタのその肩書きは、コンプレックスなのか?」
そうだった。みにいは小さいと言われることを最も嫌ったのだ。子供扱いをされる、バカにされる、なめられ、顔を見て序列を下にされる。そんな対応が嫌で、みにいはこんな口調になったし、全方位を威嚇するようになったのだ。
小さいは強さでカバーできる。
なら、逆もまた然り、だ。
強さを、小さいことでカバーできる場面だってあるはずだ。
「……約束する。お前を安全に地球から外に出すって。
だから、手伝ってくれ……お前の知恵が必要なんだよっ!」
「……アンタの見た目なら『お願いお兄ちゃんっ』で、誰でも射殺せそうだよな」
怪獣の視線から、『お願いするのにその口調はどうなんだ?』というのがひしひしと伝わってきたので、みにいは歯噛みしながら、要望に応えた。
「お、お願いっ、お兄ちゃんっ!」
おまけに、両手を頭に立てたうさ耳ポーズを披露し、精一杯の可愛いポーズをしたみにいは、ぼっと噴火するほど、顔を真っ赤にした。それは羞恥なのか怒りなのか……どっちもか。
「別にやれとは言っていないがな。オレは怪獣だし、アンタのそれにはぐっとこないけど」
「……殺してやる」
「だがまあ、承った。責任を持って、アンタを勝たせてやろう」
そして。
ミニマムヒーローとミニマル怪獣のコンビが、ここに結成された。
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