第8話 収束……?
シンドロームズに言われた通り、レッドは五階建てのビルの屋上から、トカゲサイズの怪獣を探していた。……双眼鏡など使っていない。彼の視力は人間の基準では測れないくらいの力を持っていた。
目を凝らせば……いる。ぞろぞろと隊列を作っている個体群もいれば、こそこそと個人で動いている怪獣もいた。隊列を作っている集団が怪しかったが、円を作って一匹を守っているというわけでもなさそうだ。
レッドが見ている範囲に、心臓持ちの一匹はいないと判断する。
「ピンク、説明した通りだ、持ってるアシスト・ライドで撃ち抜け」
「えー」
「えー、じゃねえよ。なんのためにお前を呼び出したと思ってんだよ」
SNSのネタ用に、カフェにある人気パフェの写真を撮っていたところを呼び出されたピンクは、隠す気もなく不機嫌だ。パージミックス同士は血の繋がりがあるので、相手の機嫌を取ろうとはしない。ピンクもレッドも、互いにわがままを通している。
それでもピンクが素直に駆け付けたのは、これが役目だからである。美味しいところを持っていくのはレッドだが、近くにいればピンクもそのおこぼれを貰うことができる。
この場にいないブルーやグリーンなどと比べれば、報酬の差は大きいだろう。
「レッドが使えばいいじゃん。色ごとに専用武器として割り振っているけど、パージミックスならどの色のアシスト・ライドだって使えるんだからさー」
「使えることと上手く扱えることは別だろうが。
俺は剣なら上手く扱えるが、お前の弓矢は専門外なんだよ。だからお前がやれ」
「……遠距離が必要ならブルーの銃でもいいじゃん」
「派手な音が出るからな。音で居場所がばれても面倒だ」
それに、まずは心臓持ちを特定しなければならない。大衆に見せるのは、心臓持ちを殺し、怪獣の存在を消滅する場面のみだ……、銃声をむやみやたらに聞かせて、てこずっている感じを悟られたくはなかった。
いくつかの銃声が響いてしまうだろうことは必要な手順とは言え、巨大でもない手の平サイズの怪獣に手こずっていると思われてるのはレッドのプライドが許さなかった。
「お前の弓なら音は最小限だ。
「苦手だけどね」
イメージ通りの矢なら作れるが。……先祖の遺産、アシスト・ライドへ溜めるエネルギー……気魄は、パージミックスの体内に流れているものだ。
それは強い精神力……、つまり彼らを動かす体力、気力のことである。
もちろん無限ではないが、徹夜した後の絶不調でなければ、二回、三回、アシスト・ライドを使ったくらいではなくならない。
そしてこの気魄を溜めたアシスト・ライドは、パージミックスでなくとも扱える。
まあ、当然、常に供給できるパージミックスと、溜まった分だけしか起動できない他人とは武器の性能は雲泥の差だが。
「じゃあいい、矢は俺が作るから、お前が放て」
「じゃあレッドがすればいいじゃん……」
「お前ほど射撃技術がないんだよ、分かれよバカが!!」
できません、と言いたくなかったレッドだったらしいが、ピンクはそれを見抜いた上でそれを引き出そうとしていたらしい……。レッドの降参を聞き届け、にたぁ、と笑う。
「ふふふ、わたしの力が必要、なんだねぇー」
どやっ、とした顔を見せるピンクに文句を言いたくなったが、部下が気持ち良く仕事できるように環境を整えるのも上司の務めだろう……、
レッドは上司ではなくリーダーであり、一応、メンバー同士は対等であるのだが、ピンク相手には年上ということもあり、ここはぐっと文句を飲み込んだ。
「もういい……好きなようにしていいから、とりあえずあれを撃ち抜いてくれ」
「はいはい、仕方ないよねーレッドって。わたしや他のみんながいないと満足に怪獣の弱点も見つけられないんだから」
それはレッドに限らず、だったが。これまで襲来した怪獣の弱点を、ほとんどシンドロームズが発見している。
レッドたちは美味しい部分だけを取っただけだ……漁夫の利だが、シンドロームズはそういうコンセプトの上で発足された組織である。
理解した上で加入しておいて、文句を言うのは違うだろう。
「で、どれを撃つの?」
「どれでもいい。再生するごとに心臓が移動するからな、固まった個体群がいて、過剰に守られてそうなやつが見つけられるまでだな……。
面倒だから移動はしねえぞ、殺し続けていればいずれ当たるだろ」
「個体数は億だっけ? 気が遠くなるけど……」
「こっから先は運だ。だが、そういうものを俺たちは持ってるはずだぜ?
じゃねえとパージミックスなんて恵まれた環境に生まれるわけがねえんだからな」
生まれた時から勝ち組であるレッドは、疑わなかった。
手早く当たりを引くことはできるだろうと信じている。
「問題はいかにそれを見逃さず、反射的に仕留められるか、だ」
運を使い、当たりを引き寄せることはそう難しくない。
問題は張った糸を瞬間的に引っ張れるかどうか、だ。
それについては、準備万端なレッドの役目である。
気が散るので他のメンバーは呼ばなかった。焦って仲間内で事故を起こしては勿体ない。今回は少人数で、レッドだけで対応するべきだろう。
「じゃ、テキトーに撃っていくから、当たりがあったら止めてね」
「分かった」
そして、放った矢が、両手の指で足りた頃だった――。
「いた」
レッドが飛び出し、過剰に守られているトカゲサイズの怪獣を、両断した。
彼が持つのは反った刃を備え、持ち手が輪になっている剣だった……、それは全体図の一片だったようで――特殊な剣だが、それでも機能は充分に発揮できる。
心臓持ちの怪獣が撃退された――その報告が、駅前の巨大スクリーンで披露された。
まったく同じ映像が全国に放送されており、全国民が『レッドによる手で怪獣が撃退された』、と信じたその時だった。
落ち着いたと思われていた事故が再び起こったのだ。
今回は怪我人こそいない、無人の電車や発電所を狙った攻撃だったが……、それが全国で同時多発した。
これまでの怪獣被害とはまた別口、と言うには、あまりにも似通っている――つまりだ。
大々的に報告したにもかかわらず、被害が増幅してしまっている……、これでは怪獣を撃退したというレッドの言葉は、嘘だった、ということになる。
もちろん、撃退したけどまだ生きていた、というレッドの些細なミスだろう、と思う者もいるだろう。しかしこれまで完璧だったレッドが、ミスをしたという印象がまずいのだ。
しかも分かりやすく都市を踏み壊す巨大怪獣ではない。手の平サイズの怪獣だった、と今しがたレッドの口から言ってしまっている……、つまり、大衆でも撃退できそうな怪獣を撃退し損ねていたというレッドへの評価は、ここでがくっと落ちることになる。
「どういうことだよ……ッ」
レッドはカメラの前から逃げるように跳び上がり、ビルの屋上へ戻る。
見下ろすと、心臓持ちを殺したにもかかわらず、蟻の巣をほじくり返したようにぞろぞろと小さな怪獣が都市の闇を歩いていた。
「過剰に守られているのが心臓持ちのはずだろッ!? 集団の中に、中心にいたんだ、全方位からの襲撃に備えて、どいつもこいつもが盾になれるように位置を取っていたっ!
なのに、あいつは心臓持ちじゃなかったってことか!?」
レッドのミスか? 否――、もっと前から、前提条件が違うとすれば。
……シンドロームズの情報が間違っていた、としたら?
「……あいつ……ッ」
思い浮かぶ顔は一人しかいない。報告は電話だったが、シンドロームズの名簿を見ればすぐに顔とプロフィールは出てくるのだ。
そして噂にもあっただろう……、ミニマムヒーローと呼ばれている、少女だ――。
「――海浜崎、みにいッッ!!」
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