第11話 vsパージミックス その1
小さな怪獣、パージミックス。
つまり彼らの攻略法も通常の怪獣と同じなのだ。心臓は一つ。人型をしているとは言え、みにいと同じく左胸にあるわけではない。部位欠損に意味はなく、すぐさま再生するし、再生すれば心臓の位置は変わってしまう。
そして人間の手で一から作られた兵器は通用しない……、彼らの体を傷つけられるのは、先祖の遺産である武器・アシスト・ライドのみだ。
当然、英雄師団から使用許可など下りるわけもないし、そもそも申請している間にタイムリミットが過ぎてしまうだろう……なので現状、みにいの手にはなにもない。
都合の良い夕立ちがあった。
天気予報を見れば、一時間は雨足が強くなる予報だった。みにいはレインコートを被り、正体を隠す。彼女の後ろ姿を見れば、下校中の小学生にしか見えないだろう。
彼女の肩に乗るのは、カエル顔の、トカゲサイズの怪獣である。
フードの内側、怪獣が耳元で囁いた。
「策はあるのか?」
「なくても行動する。幸い、一応、あるけどさ……」
上手くいくかどうかなんて分からないが……、レッドから妹を奪い返すためには、アシスト・ライドがやはり必須だ。
英雄師団から使用許可が下りないのであれば、無断で持っていくか……奪うしかないのだが、集団を相手にするのは厳しい。一頭の獅子と億の蟻なら脅威は似たようなものだが、やはりまぐれでもいいからなんとかなりそうなのは獅子の方である。
そう――だからみにいは、奪うつもりなのだ。
常にアシスト・ライドを持ち運んでいるパージミックスから。
レッドを相手にした場合は傷をつけることを目的としているが、これが相手の持ち物を奪うことのみに絞れば、みにいにアシスト・ライドがなくとも対抗手段はある。
だからみにいはカラオケボックスにきていた。
ここにピンクがいると事前に調べておいたのだから。
―― ――
友人とカラオケボックスに遊びにきていたピンクは、席を外し部屋から出た。お手洗いはどうやら一つ下の階にあるらしく、非常階段を経由しなければいくことができない。
エレベーターも使えるが、手間を考えれば階段の方が早いのだ。
外に出ると激しい夕立が見えた。吹き込む風と雨に、少しばかり鬱陶しく嫌悪する。さささ、と通り抜けてしまおうと思ったピンクは、階下にいるレインコートの影を見た。
……小学生? 迷子? と思ったのも束の間だった。
小さな影がいきなり突撃してきて――、
「あ」
下から持ち上げるような軌道で突進されたピンクは、腰を手すりにつけてしまった……雨で濡れた手すりに、だ。咄嗟に手すりにつけた体重を乗せた手が、つるっ、と滑り、そのまま地面まで、真っ逆さまに落ちる。
四階。頭を打っていなくとも死ぬ高さだろうが……、ピンクは空中で体を後ろに一回転させ、ちょうど地面に落下する瞬間に、両足をつけた。衝撃は緩和される……されなくとも、膝にかかった衝撃は部位周辺を破壊しながらもすぐさま再生した。
パージミックス。
人と交わった怪獣である。
「……最悪……びしょ濡れじゃん」
強く多量の雨に打たれ、髪どころか服までびしょびしょだ。
肌に張り付き女性特有の曲線がくっきりと浮かんでしまっている……だが、それにドキッとするみにいではなかった。
引き締まったスタイルは妹のえりいの方が良く見える。身内贔屓だろうけど、第三者から見てもピンクを選ぶ者はいないだろう。
元々、ピンクはお色気担当ではないとは言え……、
『自虐するならまだしも他人に言われるのはムカつく』と言ったタイプだ。
今回も、それを敏感に察知したのだろう、普段は温厚寄りのピンクが、早速ポーチから折り畳んだ武器――アシストライドを取り出した。
……夕立ちの中、というのもあるのだろう、ストレスが溜まっているらしい。
バリバリバリィッッ! と、近くに雷が落ちた鋭い音が響き――、
「わたしがパージミックスじゃなかったら普通に殺人だけど? ……やり返される覚悟があるからやったんだよね? じゃあいいよね、撃ち抜かれて痛い助けてって言っても助けてあげないから――だったらさ、雨に沈んでろよ、シンドロームズのガキッッ!!」
折り畳まれた三節混のような手の平サイズの武器が開かれ、それは縦に繋がり、直線ではなく扇型の曲線になる。
ぴんと張られた糸、そしてピンクが指を向ければ、気魄によって生み出された固体にも気体にも見える矢が構えられた。
怪獣に唯一、通用する武器である。
だからと言って人間相手にさらに強力にダメージを与えるような加点はなく、効果が現れない、なんて減点もない。
ただの矢としての脅威しかないが……その脅威は充分、みにいを苦しめる兵器である。
「雨の中、小さな体で転がっていればそうそう当たらないとか思ってる?」
「!?」
「気魄で作った矢には効果を与えることができるの。あいつを狙え、なんて細かい指示はできないけどね――二分の一で相手が避けた方向へ追尾させるくらいならできるのよ……ねっ!」
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